ナポリに魔法をかける、元銀行員サッリ監督の戦術「トータル・ゾーン」

 今から5年前の2012年に、フィレンツェ郊外にあるクラブの下部組織を指導する旧知のベテラン監督から誘いを受け、当時セリエBに所属していたエンポリの練習を見に行った。

 そこでは、これまで見たこともないトレーニング・メニューが行なわれ、紅白戦になると目を疑うような「戦術」の応酬を目の当たりにすることになった。見学に誘ってくれたベテラン監督は、私の隣で熱心にメモを取りながら、こう何度も繰り返していた。

「この監督は必ず近い将来に上(セリエA)に行く。そして彼の戦術は必ず広く知られることになるから、今のうちに中身を詳しく学んでおく必要がある」

 一言で表現するなら、「トータル・ゾーン」。その戦術を実践する監督の名は、現在、セリエAの強豪・ナポリを率いるマウリツィオ・サッリだ。

 我々が見ていた夏の合宿を終えると、サッリはエンポリ監督就任1年目にして、前年にセリエB18位に沈んでいたチームを4位に引き上げた(プレーオフ決勝でリヴォルノに敗れ、昇格は逃す)。さらに翌2013−14年シーズンには2位まで順位を上げ、無条件でセリエA昇格を果たしている。

 いわゆる「ゾーン・ディフェンス」はもはや誰もが知るところだが、私が目にしたそれは明らかに違っていた。

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