【イップスの深層】1日1000球の秘密特訓で、ガンちゃん奇跡の復活

連載第3回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
◆証言者・岩本勉(3)

 暗闇に包まれた室内練習場の片隅で、蛍光灯のスイッチを入れる。薄明かりに照らされた人工芝を踏みしめ、岩本勉は"秘密特訓"のセッティングを始めた。

 防球ネットにシューズケースをぶら下げて「的(まと)」を作り、そこから2メートル離した位置に300球ほど硬球の入ったボールケースを置く。まるで初めてボールを握った子どもが壁当てをするような距離で、岩本はシューズケースに向かってスナップスローを始めた。

 なんとなく感覚がつかめたと思えば、距離を3メートルに伸ばす。3メートルが大丈夫だと思えば4メートルへ。しかし、距離が離れていくうちに恐怖がこみ上げてきて、再び3メートルに戻す。延々、その繰り返しだった。

「ほんま、水前寺清子ですよ。これは冗談じゃなくて、1日1000球は投げていましたよ。プロ3年目にイップスになって、このままならクビになって、大阪に帰らなければいけない。そんな恥ずかしい野球人生は送りたくないと思ったんですわ。僕にも見栄があったのでね。それなら、潰れるまで投げてやろうと。潰れてもイップスではなく、『投げ過ぎ』という大義名分ができますから」

 すでにイップスであることはチーム内で周知の事実だったとはいえ、人に投げる姿を見られることに抵抗があった。だから誰もいない室内練習場で、最低限の光量しかない薄明かりの下、ひたすら投げ込みを続けたのだった。

 徐々に投げられる距離が伸びていくと、電源を入れる蛍光灯の数を増やした。その環境にも慣れると、他の選手が参加している夜間練習に顔を出し、わざと人前で練習するようになった。

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