【イップスの深層】 150キロ右腕・一二三慎太が失った投球フォーム

連載第6回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
◆証言者・一二三慎太(1)

 長い高校野球の歴史のなかで、かつてこんな選手がいただろうか?

 甲子園春夏連続出場校のエース。それもプロスカウトも注目するような有望株が、春と夏でまるっきり違うフォームで投げたのだ。そして驚くべきことに、フォームを変えてわずか3カ月にして、その投手は夏の甲子園で準優勝まで上り詰める。

 投手の名前は一二三慎太(ひふみ・しんた)という。彼がフォームを変えた理由は「イップス」だった。

 肩が痛い――。

 初めて感じる痛みだった。2010年の冬、東海大相模のエース・一二三慎太は、投げ込み中に右肩が抜けるような錯覚を起こした。

 中学時代(大阪・ジュニアホークス)から故障の多かった一二三は、腰、ヒザ、ヒジとさまざまな部位を痛めてきた。しかし、この肩の痛みは異質だった。

「中学時代のケガはごまかして放れるレベルでした。でも、肩はホントにきついっすね。腕を回せなくなりますから。腕が上がらなくなって、ノースローにして休めて、また投げ始めたんですけど、痛みが取れませんでした」

 ボールを握り、テイクバックをとるだけで痛い。ボールをリリースした直後にも激痛が走る。次第にリリースすることに恐怖感を覚え、腕に力が入らなくなる。力が入っていないのに、腕は振っている。体がフワフワとしていて、ピッチングをしている実感が湧かなくなった。

 それまで一二三が大切にしていたのは、リリースの感触だった。肩からヒジ、ヒジから手首、手首から指先へと力が伝わり、リリースで「パチン!」と弾くような感触がある。それが一二三にとってのピッチングであり、野球をする上で最大の快感でもあった。しかし、肩を痛めてからその感触は味わえなくなってしまった。

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