19歳の娘が父へ放った一言、取り返せない時間

19歳の娘が父へ放った一言、取り返せない時間

6年前のあの日、父を追い返してしまった娘が過去に戻りたい理由とは?(写真:プラナ/PIXTA)

ハリウッド映像化、アメリカで1位、イタリアで1位、イギリスで文学賞にノミネートされるなど、世界中で話題のベストセラー、日本でシリーズ140万部突破の小説『コーヒーが冷めないうちに』。シリーズ最新作『さよならも言えないうちに』の中から第4話『父を追い返してしまった娘の話』を丸ごと、東洋経済オンライン限定の試し読みとして3日連続・計3回に分けてお届けします。

■二度と来ることはない、と思っていたのに……

雉本路子(きじもとみちこ)はうんざりしていた。

面倒な親の干渉から逃れるため、宮城県は名取市閖上(なとりしゆりあげ)からわざわざ東京の大学に進学したというのに、目の前にはしかめ面をした父が座っている。名は雉本賢吾(けんご)。

ここは、大学から駅二つ離れた場所にある喫茶店で、名を「フニクリフニクラ」といった。前に一度だけ使ったことのある喫茶店だったが、地下二階なので窓がなく、薄暗い店内は路子の気分を鬱々とさせる。

(二度と来ることはない、と思っていたのに……)

いや、二度と来ないと決めていたからこそ、賢吾との待ち合わせに使ったのだ。よく使う喫茶店だと友達と鉢合わせすることだってある。田舎から出てきた父親を友達に見られたくなかった。

「ちゃんと食べてるのか?」

しわがれた威圧的な声。

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