もはや患者の「苦痛に寄り添えない」日本の危機

もはや患者の「苦痛に寄り添えない」日本の危機

日本赤十字看護大学の川嶋みどり名誉教授(撮影:梅谷秀司)

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないなか、看護師は激務で疲弊している。それ以前から看護師は過重労働にあり、看護の本質的なケアが軽んじられる環境にあった。

その原因や今後の看護のあるべき姿について、看護界に約70年も身をおく日本赤十字看護大学の川嶋みどり名誉教授に聞いた。看護師が抱える問題には、労働の本質や人間の生き方に通じるものがあり、ほかの業界で働く人にとっても共感を得られのではないだろうか。

この記事の前編:看護界の重鎮が91歳で新雑誌を創刊した切実事情

診療報酬の改訂が、看護師の働き方を変えた──新型コロナウイルスが医療現場にもたらしたことは、何でしょうか?

川嶋:コロナ以前からある看護の危機について、コロナによって忘れられてしまっていることです。これまで何十年も、看護師は限られた人員で、困難な量の業務をこなしてきたのです。

超長時間・過密労働するなかで人間関係が悪くなり、職場で分断も起きてしまう。人間には、限界があります。看護師の働き方を変えた大きな原因になったのが、診療報酬の改訂です。

(解説)高齢者の増加に伴って年々医療費が増大することを懸念した国は、効率を求め、病院の入院日数を短くすることで在宅医療に移行し、医療費を抑制しようと政策誘導した。診療報酬は入院日数が短いほど高くなるように改定され、病院はこぞって早期に患者を転院させ、ベッドの回転率を上げて利益を出すようになった。

症状の重いままほかの病院に患者を移すことも増え、本来はリハビリを目的とする病院の負担は増した。そのリハビリ病院も一定の入院日数を超えると病院収入が落ち込むため、回復途中の患者でも在宅医療に移行させる問題が起こっている。入院日数の短縮化による「追い出し」医療が一因となり、看護師の心身を疲弊させている。

──入院日数の短縮化で看護師が失ったものは?

川嶋:入院日数が短いことで、本当に治癒して退院する方が少なくなったこともあり、看護師が自分のケアがどこまでその患者さんに効果があったのかどうか、確信がもてなくなりました。

看護して回復したことで患者さんから「ありがとう」と言われ、「おめでとう」と言って患者さんが退院する。その経験こそが看護師のやりがいにつながるのに、それが奪われているのです。自分の看護の効果がわからなければ人にも伝えられず、世の中にも看護の価値が理解されなくなってしまいます。

続きは 東洋経済オンライン で

関連記事(外部サイト)