メキシコは天国から余りにも遠く、アメリカに余りにも近い

メキシコは天国から余りにも遠く、アメリカに余りにも近い

メキシコ・ティファナ側からの国境。家族が壁越しに面会している(shakzu/Gettyimages)

メキシコ人の好きな自虐ネタにこんなのがある。

 「メキシコは天国から余りにも遠く、アメリカに余りにも近い」

 自国の貧しさを世界一の富裕国に隣接する悲・喜劇性と絡め、嗤っているのだ。

 私がそのことを思い知ったのは、カリフォルニアから徒歩で国境検問所を越えてメキシコに入った当日。ほぼ半世紀前のことだ。

 国境の町ティファナは、すぐに物乞いの群れに付きまとわれて煩わしく、加えて異様に猥雑なので、私はメキシコ中部の太平洋岸まで一気に下ろうと、鉄道の始発駅メヒカリに向かうバスに跳び乗った。

 ティファナからメヒカリまでは2時間ほどだが、1時間近く走った頃、バスは奇妙な場所で停車した。人家もバス停もなく、左手はアメリカへと続く砂漠地帯である。

 7〜8人の男たちがゾロゾロ降りた。彼らは荷物を持ち、砂漠へと歩き始めた。

 私は片言のスペイン語で隣の男に尋ねた。

 「ア・ドンデ(どこへ?)」

 男は答えてくれたが、「ア・ロス・エスタドス・ウニドス(合衆国へ)」と「ノチェ(夜)」しか理解できなかった。

 けれど、彼らが密出国の集団であり、案内の業者と共に夜中にアメリカ・メキシコ国境を越える予定、ということはわかった。

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