古さと新しさの混在―革新的な牛鍋屋が伝統を作る

古さと新しさの混在―革新的な牛鍋屋が伝統を作る

松阪牛ロース肉の「すき焼き 松」11,880円(税・サービス料込。1人前180グラム。写真は3人前)。ワインとのマリアージュを楽しみたい

 東京・新橋。第一京浜沿いに建つビルに入り、階段を上がる。牛と葡萄の壁画に感動を覚えつつ、2階の入り口に。大きく引き伸ばされた明治時代の店舗の写真、開店した明治13年(1880)頃に使われていた古い鍋が展示されている一方で、夥(おびただ)しい数のボトルワインが並んでいるのが目に入る。

 古さと新しさが混在したエントランスに、立派なカイゼル髭をたくわえた5代目店主の藤森朗(あきら)さんが出迎えてくれた。

 古さと新しさの混在。これこそがすき焼きの、そして「今朝(いまあさ)」の魅力である。

 この店について記す前に、すき焼きという料理の黎明期に触れておきたい。

 7世紀後半に出された天武天皇の勅令により、我が国では肉食は禁忌とされてきた。江戸時代末期以降、欧米人が牛肉を食べる様子を見聞きし肉食に挑んだ日本人もいたが、ゲテモノ喰いと見下す人も多かった。

 そんな日本人の食生活に大きな変化が起きたのが、明治5年(1872)。明治天皇が宮中で牛肉を召し上がったのだ。

 これを機に、関東では牛鍋が大流行する。日本人の好みに合うようにと、臭い消しの葱と味噌と共に牛肉を焼いた料理で、すき焼きの先祖だ。当時、劇作家・新聞記者として活躍した仮名垣魯文(かながきろぶん)は、著書『安愚楽鍋(あぐらなべ)』で〈牛鍋くわねば開化不進奴(ひらけぬやつ)〉と記している。

 その頃、信州・上諏訪から一人の若者が上京し、牛鍋屋「今廣(いまひろ)」で働き始めた。

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