恐るべし、近年のイラン映画

 本年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイラン映画『セールスマン』(アスガー・ファルハディー監督)を見に行った。

 トランプ政権がイランなど7カ国に入国制限命令を発したため、監督と主演女優が授賞式をボイコットした曰く付きの作品である。そのせいもあってか、イラン映画には珍しく、観客席は8割方埋まっていた。

 この半年ほどイラン映画にハマっている。アカデミー賞騒動のせいではなく、純粋に現代の映画として面白いからだ。

 今回の『セールスマン』は、首都の若い夫婦が遭遇した「災難」をイランの伝統的(宗教的)価値観と絡めた心理サスペンス。

 国語教師とその妻が転居して間もなく、夫の留守中に、妻が自宅に侵入した何者かに襲われる。犯人を捕まえたい夫と、事件を表沙汰にしたくない妻。次第に亀裂を深める2人の感情。容疑者は転居先の前の住民だった娼婦の関係者だとわかるが、夫がなおも謎を追い続けると、行く手には意外な事実が……。

 夫が真の犯人と対峙するクライマックスに向かって息もつかせぬドラマが展開する。

 確かに見応えはある。だが、レイプという極端な題材のせいか、あるいは夫婦が劇団員でアーサー・ミラーの名作『セールスマンの死』を上演中というハイブローな構成のせいか、私は同じ監督の作品なら、前のアカデミー賞外国語映画賞の受賞作『別離』(2011年)の方がより優れていると思った。

 『別離』は同じく首都に住む夫婦の話だが、中学1年の娘と認知症の夫の父が重要な役割を果たしており、別の国や社会でも十分通用する現代的な家族の物語と言える。

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