誰もが知っていながら報じられない 「労働者」以前に「人間」としてなんの権利も 認められていない非正規公務員の現実 【橘玲の日々刻々】

誰もが知っていながら報じられない 「労働者」以前に「人間」としてなんの権利も 認められていない非正規公務員の現実 【橘玲の日々刻々】

Photo :mits / PIXTA(ピクスタ)

日本社会には、誰もが知っていながらも積極的には触れないこと(タブーとまではいえない)がいくつもある。共通項は、(1)解決が容易でないかほぼ不可能なことと、(2)それでも解決しようとすると多数派(マジョリティ)の既得権を脅かすことだ。そのため、解決に向けて努力することにほとんど利益がないばかりか、逆に自分の立場を悪くしてしまう。こうした問題の典型が「官製ワーキングプア」すなわち非正規で働く公務員の劣悪な労働環境だ。

 これは多くのひとが知るべき事実だと思うので、今回は上林陽司氏の『非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度』(日本評論社)を紹介したい。上林氏は10年にわたって官製ワーキングプアの問題に取り組んできた第一人者だ。

「正規と非正規の専門性の逆転」 この本には驚くような話が次々と出てくるが、そのなかでもっとも印象的な事例を最初に取り上げよう。

 2015年、27歳の森下佳奈さんが多量の抗うつ剤や睡眠導入剤を飲んで自殺した。佳奈さんは臨床心理士になることを目指して大学院で勉強し、卒業後、「障害のある子どもたちや何らかの困難を抱える人たちに寄り添う仕事」に就きたいと北九州市の子ども・家庭相談員の職を選んだ。だがその条件は年収200万円程度の任期1年の非正規で、それに加えて上司から壮絶なパワハラを受けることになった。

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