「世界がどんどん悪くなっている」というのはフェイクニュース。 先進国の格差拡大にも関わらず 「公正なルール」のもとでの不平等は受け入れられる 【橘玲の日々刻々】

2004年に『タイム誌』の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれた進化心理学者のスティーブン・ピンカーは、『暴力の人類史』(青土社)につづいて2018年に“Enlightenment Now(いまこそ啓蒙を)”を上梓し、日本でも『21世紀の啓蒙』(草思社)として昨年末に発売された。上下巻で1000ページちかい大部の本で、とてもそのすべてを紹介できないが、かんたんにいうなら「18世紀の“啓蒙の時代”以降、世界はますますゆたかで平和になり、人類は幸福になった(人口が増えたにもかかわらず平均寿命・健康寿命や教育年数が延び、1人あたりGDPが増え戦争や殺人事件が減った)のだから、「反知性主義」に陥ることなく、「理性、科学、ヒューマズム、進歩」を信じて啓蒙をより先に進めていこう」と説く本、ということになるだろう。

 本書のいちばんの読みどころは第三部「理性、科学、ヒューマニズム」で、「世界は決して、暗黒に向かってなどいない」という事実(ファクト)に基づいて、右派ばかりでなく左派(リベラルな知識人)のあいだにも蔓延する「啓蒙への蔑視」が徹底的に批判される。前著『暴力の人類史』を既読の方は、第一部「啓蒙主義とは何か」で全体の構成をつかんだあと第三部に進み、そのあと第二部「進歩」から興味ある各論を読んでいってもいいだろう。

 ここではその各論から、「不平等は本当の問題ではない」(第九章)と「幸福感が豊かさに比例しない理由」(第十八章)について、私見を交えて紹介してみたい。

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