震災の現実を知らせるファンタジー〜山田太一ドラマスペシャル「五年目のひとり」

ギャラクシー賞月間賞:山田太一ドラマスペシャル
「五年目のひとり」

11月19日放送
21:00〜23:06
テレビ朝日

 非被災者が被災者を描くのは勇気のいることだ。山田太一はあえてその困難な仕事に向き合い、2014年の「時は立ち止まらない」では、被災者と非被災者に分断された二家族の交流を描いて高い評価を得た。その山田が、震災で一度に家族8人を喪った中年男性と、震災には無縁な女子中学生との一風変わった交流を描いたのが本作である。

 誤解を恐れずに言えば、本作はファンタジーなのだと思う。冒頭、主人公・木崎秀次(渡辺謙)は、中学校の文化祭でリズムダンスを踊る14歳の少女・松永亜美(蒔田彩珠)に目を奪われ、帰り道で声をかける。「キレイだった。一番だった」。かなりアブナイ中年である。案の定、母親は警察に相談するが、当の亜美は心を浮き立たせる。なぜなら「キレイ」にも「一番」にも縁のないごく平凡な少女にとって、それは自分を肯定してくれる魔法の呪文だからだ。そして福島を離れてはみたものの、段ボール箱さえ片付けられずに死者たちの気配に囲まれて暮らしている木崎もまた、死んだ娘に瓜二つの亜美に心を和ませる。ふたりにとって、お互いがとても大切で愛おしい存在になっていくのだが、その危うさに周囲はたじろぎ、木崎は福島に帰ることを選ぶ。けれども亜美とのやわらかな触れ合いは木崎の心の中の空っぽの段ボールを満たしてゆくのだ。だからこそ、木崎は同郷の花宮京子(市原悦子)を前に、心情を溢れさせるのである。「忘れねえと生きていけねえ。忘れたくねえ。忘れらんねえ。忘れねえと生きていけねえ。食パンにメロンパンにブリオッシュにクロワッサン……」とパンの種類を連呼しながら木崎が大泣きする場面は、私たちの心を揺さぶる。木崎は震災から5年目のそのとき初めて、喪失と向き合い、泣くことができたのではないだろうか。

 堀川とんこうの潔い演出、渡辺の熟練の演技、木崎に恋にも似た感情を募らせていく多感な14歳を演じた蒔田が実によい。このささやかなファンタジーを通して、私たちは震災が決して終わっていないという重い現実を垣間見るのである。(岡室美奈子)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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