不夜城・新宿に息づく多様な人生〜BS1スペシャル「ラストトーキョー “はぐれ者”たちの新宿・歌舞伎町」

ギャラクシー賞月間賞:BS1スペシャル
「ラストトーキョー “はぐれ者”たちの新宿・歌舞伎町」

7月28日放送
21:00〜22:49
日本放送協会

 

NHKの女性ディレクターが母親にカメラを向け、彼女が過ごしてきた新宿の姿を浮かび上がらせる。セルフ・ドキュメンタリーと言えば聞こえがいいが、自己満足的な内容になるのではと、あまり期待せずに見始めたら、いつしか引き込まれていた。

 

途中、自由奔放な俳句集団やタイガーマスクのお面をつけた新聞配達員、日雇い労働者の劇団など“はぐれ者”たちの姿を挿入し、歌舞伎町を中心とした不夜城の多様性を描き出す。だが、何より魅力的なのは、番組の大半で語られる母親、柚木佳江さんの半生だ。別のディレクターが撮ってもそれなりの厚みが出そうだが、肉親ならではのコメントが散りばめられ、あえて家族を記録した成果となっている。

 

新宿駅周辺で45年にわたり麻雀店を営む佳江さんは、自らを「新宿のネズミ」と自嘲気味に語るが、夫や娘と暮らす家庭では、どこにでもいそうな優しい母親だ。店には高齢のベテランスタッフがそろい、面倒見の良さも感じさせる。そんな佳江さんが新宿にこだわるのは理由がある。父親が妻以外の女性と家庭を持ってしまい、佳江さんと母親は、やがてその女性の支援を受けるようになった。その悔しさ、悲しさが、佳江さんを新宿で踏ん張らせる原動力となったのだ。

 母を含め、新宿で生きる人々の強さの秘密を問う娘に、佳江さんは自己責任を強調。「たたき上げの人っていうのは、踏みつけられても本当に這い上がるから」と言い放つ。これにはハッとさせられた。何かというとへこたれる今の日本人には良薬となる一撃だ。かといって自身がなめてきた辛酸は、娘に味わわせたくないと佳江さんは繰り返す。当然の親心だが、かえってそれが彼女の凄みを増幅させる。

 約100分の長尺ではあるが、カメラワーク、カットなど映像面でも工夫を凝らし、一編の映画のよう。ラストで佳江さんが明かす因縁の女性に対する心境の変化も、これぞ人生と感じさせる。私小説のような出来映えに賛否はあろうが、若手の試みを実現させた制作陣のおおらかさは評価したい。(旗本浩二)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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