衝撃スクープを伝えた見事な取材力と構成力〜NHKスペシャル「全貌 二・二六事件 〜最高機密文書で迫る〜」

ギャラクシー賞月間賞:NHKスペシャル
「全貌 二・二六事件 〜最高機密文書で迫る〜」

8月15日放送
19:30〜20:43
日本放送協会

 1936年、陸軍の青年将校たちが首相や大臣らを襲撃した近代日本最大の軍事クーデター「二・二六事件」。この歴史的な事件の一部始終を記録した極秘文書が83年経った今発見されたことにまず驚かされた。しかも密かに情報を収集していたのは海軍だったという事実。これまで陸軍の事件として語られてきた二・二六事件の認識を覆す大スクープである。5000ページに及ぶ資料を解析した専門家たちも息を呑んだという。

 陸軍上層部が事件の裏で密かに進めていた策略や、陸軍と海軍が内戦直前だったという現実、さらには公にされてこなかった昭和天皇の知られざる行動など、これまで私たちが知ることのなかった新事実が次々に明らかにされていく。最も驚いたのは、海軍の首脳部が事件の1週間も前に襲撃の目標となる重臣たちや決起する首謀者たちの名前まで把握していたことである。海軍は事件の計画を事前にすべて知っていたにもかかわらず、何も手を打たずに黙認し、その事実すらもずっと闇に葬ってきたのである。

 この番組が高く評価されたのは、もとよりそのスクープ性と丹念な取材、卓越した構成力である。現在100歳を超える元反乱部隊の隊員や陸軍鎮圧部隊の隊員、元海軍陸戦隊の隊員らの証言も生々しい。さらに特筆すべきなのはドキュメンタリーとしての手法である。極秘文書にリアルタイムで綴られた記述を厳選してナレーションで語り、緻密な再現ドラマとCGで陸軍と海軍の動きを詳細に紡ぐ。その丁寧な演出により分刻みで進む事件の緊迫した状況を立体的に映像化し、迫力のあるストーリーテリングを実現した。

 日本はこの大事件からわずか9年後に壊滅的な敗戦を迎えることになる。番組の終盤で、現代社会の日常の風景と、そこに戦車がものものしく列をなす過去の様がオーバーラップして描かれる。その象徴的なエピローグからは、私たちが事実を知らされずに再び誤った道へ歩んではいないかと問いかける制作者の明確な問題意識が汲み取れる。作り手の使命感と覚悟によって満を持して放送された秀作である。(小泉世津子)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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