「表現の不自由展・その後」 中止報道 浮き彫りにされた「報道の不自由」 を考える

報道番組に喝!【NEWS WATCHING】80
文=古川柳子

あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」の中止は、皮肉にも今の日本が直面する「表現の不自由」を露にした。この問題に関しテレビが何を報じ、何を報じなかったかを考えてみたい。

展示中止をめぐる動きと
テレビ論調の推移

◇8月1日、あいちトリエンナーレ開幕。企画展「表現の不自由展・その後」(以後「表現の不自由展」)に、従軍慰安婦を象徴する少女像などが展示されているとして抗議電話・メールなどが殺到。

◇8月2日、河村たかし・名古屋市長視察後会見。「日本人の心を踏みにじるもの。税金使ってこんなことするのは即刻中止してほしい」と県に中止要請。同日、菅義偉・官房長官は定例記者会見で「補助金の支給は事実関係を確認した上で適切に対応する」と発言。

◇8月3日、大村秀章・愛知県知事が「表現の不自由展」中止会見。抗議のなかに脅迫・恫喝があり、警察も捜査困難とのことで安全な展示運営が難しいと判断。

 大村知事の会見は土曜日の夕方だったため、日曜日は「サンデーモーニング」(TBSテレビ)が中止の事実を伝え、「これが前例になり表現が萎縮していくのが怖い」とコメントするに留まっていた。各局が一斉に報じ始めたのは5日の朝からだ。いずれも大村知事、河村市長、菅官房長官、津田大介芸術監督らのコメントを紹介しながら事の経緯を伝えたが、河村市長の強烈な発言で「少女像=反日=公費で展示することの是非」という枠組みに論点が引きずられた感がある。この日の「とくダネ!」(フジテレビ)はこの問題を日韓問題として報じた。少女像の展示中止に反発する韓国SNSとホワイト国除外反対デモ参加者の「安倍が気に食わん」というインタビューをつなぐ編集で、展示中止は日韓軋轢を印象づけるパーツとなっていた。

◇5日昼の記者会見で大村知事が河村市長発言を批判。「発言は公権力が表現内容に介入するという意味で憲法違反の疑いがきわめて濃厚」。

◇これに対し河村市長が反発。「表現の自由は憲法にあるが何をしてもいいわけではない」。

 この夜の「報道ステーション」(テレビ朝日)は、河村=表現の自由への介入者vs大村=批判者との構図で報じた。対立を強調する報じ方は各局で見られた。わかりやすいラベリングは、展示中止を決めた大村知事が表現の自由の擁護者と映る倒錯を生んだともいえる。脅迫的抗議は威力業務妨害であるにもかかわらず、大村知事も菅官房長官もこの犯罪行為に毅然とした態度をとらなかったことを問題視したのは7日の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)だった。

 愛知県が正式に警察に被害届を出したのは8月6日。翌日には「ガソリン携行缶を持っていく」と脅迫ファクスをコンビニから送った59歳の会社員があっさり逮捕された。今回殺到した抗議はツイッターなどでの「電凸」の呼びかけに応じたものだった。匿名の一般人が集団心理で無責任に人を攻撃することが可能になるなか、展示中止決定以前にこの社会的暴力にどう対応するべきだったかは確かに根幹的論点だったはずだ。

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