激動の政変が塗り替えるメディア地図

文=ジャーナリスト
稲木せつ子

きっかけは6分半の覆面ビデオ

右傾化が進む欧州で、真っ先に極右政党が与党入りして注目されたオーストリアだが、1年足らずで連立政権が崩壊し、再選挙となった。きっかけは、5月にドイツメディアが公開した隠し撮りビデオだ。極右、自由党のシュトラッヘ党首が、スペインのリゾート地で、ロシア富豪と名乗る女性と密会した様子がまざまざと映っている。同氏は、多額の政治献金を申告せずに寄付する手口を指南し、その見返りに利益供与をほのめかすなどの問題発言をしていた。

 オーストリアのメディアは蜂の巣をつついたような騒ぎになり、翌日、シュトラッヘ氏は記者会見で密会の事実を認め、副首相、党首の役職から退くと述べ、国民に謝罪した。

 ここまでは、どの国でもありがちな不祥事だが、政治ドラマはここから二転三転する。

 連立を組んでいた国民党のクルツ首相は、総選挙のやり直しを決め、自由党の金庫番をしていた大物閣僚の更迭を試みたが、自由党が強く反発。クルツ氏は「もうたくさんだ」と連立解消を決め、自由党の大臣を全員解任して、再選挙まで「少数与党」で政局を乗り切ろうとした。 

 混乱の最中に行われた欧州議会の選挙で、票を伸ばしたのはクルツ氏の国民党だった。支持拡大を喜んだのも束の間、翌日に野党と自由党が結託して内閣不信任を突きつけ、クルツ政権は戦後初の総辞職に追い込まれた。

 ビデオが公開されてから、議会によるクルツ政府の「解任」までは、わずか8日間。ドラマのような展開に、多くの人々はテレビに釘付けになった。公共放送の「ORF」ではほぼ連日、5時間以上の報道特番を編成し、流動的な政局を伝えた。筆者は、同国に20年以上住んでいるが、これほど特番が続いたのは初めてだった。

 「ORF」によると、クルツ首相が再選挙を発表した土曜夜の記者会見は、180万人が視聴(占拠率56%)したほか、不信任で総辞職に追い込まれた日の19時台のニュース番組も140万人が視聴(占拠率52%)し、記録的な数字となった。

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