京都アニメーション放火事件報道と日韓報道「伝える」 のは何のため、誰のためか

報道番組に喝!【NEWS WATCHING】81
文=辻 一郎

京アニ事件で問われた
実名報道の是非

 京都市伏見区の京都アニメーションの第一スタジオが放火された事件は、10月4日、全身火傷で入院中だった女性が新たに亡くなり、犠牲者が36人に達した大惨事だが、事件で亡くなった35人(7月27日時点)の名前が長く伏せられたままだった点でも、特異な事件だった。

 これまでメディアは事件発生の都度、被害者の名前をできるだけ早く伝えることを使命としてきた。ところが今回は、被害者35名のうち10名の名前を伝えたのが、事件発生から16日後。残りの25人にいたっては、実に40日も過ぎてからだった。ニュースを構成する5W1Hのなかで最も大事な「WHO」の報道がこんなにも遅れたのはなぜか。どのような判断があったのか。京都府警が残る25名を公開した8月27日、各社がどう説明するかに注目した。

 ところが驚いたことに「ニュースウオッチ9」(NHK)と「newszero」(日本テレビ)が短く触れただけで、「報道ステーション」(テレビ朝日)や「NEWS23」(TBSテレビ)はその点には言及しなかった。しかも短く触れた「ニュースウオッチ9」も、アナウンサーの声で「NHKでは事件の重大性や生命の重さを正確に伝え社会の教訓とするため、被害者の方の実名を報道することが必要だと考えています。その上で遺族の方の思いに十分に配慮して取材と報道にあたっています」と伝えただけで、実名報道がなぜ遅れたのかの説明が抜けていた。この日のニュースでさらに合点がいかなかったのは、毎日放送のローカルでの報道対応だ。全国ネットのニュースでは他社と同様25名の名前を伝えたが、ローカルでは遺族の承諾が得られた5名の名前だけを流し、「この他20人の方々の名前が発表されました」と伝えていた。つまり同じチャンネルでありながら、ネットとローカルでは名前の扱いを変えていた。おそらく匿名を希望する遺族への配慮だろうが、こうすることにどれだけの意味があるのか疑問だったし、あえてこうするのなら、なぜするのか、理由を放送でキチンと説明してほしかった。

 遺族のなかには「35名はそれぞれ個々に、クリエイターの誇りをもって働いていた。35分の1の扱いでは困る。名前を出してほしい」と記者会見で訴えた方もいた。また実名の公開に強く反対した会社側も、9月6日、全国公開した新作映画のエンドロールには、監督の意向を入れ、犠牲者も含む制作にかかわったスタッフ全員の名前を流した。つまり遺族にとっても会社にとっても、被害者の名前は彼らの「生きた証し」であることを示していた。それを遺族の希望だけで伏せてしまっていいものか、疑問だった。

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