女優たちの被爆手記朗読劇、12年の気概〜BS1スペシャル「女優たちの終わらない夏・終われない夏」

ギャラクシー賞月間賞:BS1スペシャル
「女優たちの終わらない夏・終われない夏」

11月10日放送
19:00〜20:49
日本放送協会 かわうそ商会 NHKエデュケーショナル

 「お母ちゃんの骨は口に入れるとさみしい味がする」。広島・長崎で被爆した子どもたちや母親の手記を朗読する女優たち。年齢を感じさせない凛とした立ち姿と、朗読会を12年間続けてきた気概に、彼女たちの心の清純さ、一途な思いをひしひしと感じた。

 被爆手記という深刻な内容に、渡辺美佐子、高田敏江、日色ともゑ、大原ますみ、山口果林といった、かつて一世を風靡した女優たちがなぜ取り組むのか。番組は、体力的な理由から今夏を最後に朗読会「夏の会」に幕を下ろす彼女たちの地方公演に密着。一人一人の半生を織り交ぜ、会に寄せる思いをあぶりだす。

 渡辺美佐子は、東京の学校で出会った少年が疎開先の広島で被爆死したことを後に知り、彼に対する思いが出演の根底にある。朗読会場で彼の妹の孫と談笑した後、去っていくときの後ろ姿が実にカッコいい。さすが大女優。その渡辺が明かす。「手記にある言葉で最も多かったのが『おかあちゃん』と『天皇陛下万歳』だった」。この矛盾を現代に突きつけようと、彼女たちは踏み出したのだ。

 一方、パートナーの死に打ちひしがれ自殺さえ考えていた山口果林は、台本を読み、命を粗末にしようとしていた自らを恥じたと明かす。壮絶な手記は出演者に衝撃を与え、人生を見直すきっかけにもなったようだ。公演の裏方もこなす彼女たちの姿は女優のイメージを変えさせるが、そこには戦争の惨禍を後世に伝えようとの確固たる信念がある。とはいえ手記の朗読は、あくまで被爆者の代読でしかないという。どんなに考え抜いて演じても「書いた人の何分の一にも達しない。非常に苦しい作業」(川口敦子)。

 それでも伝えようと踏ん張り続けた彼女たちに、これ以上この大仕事を任せるのは酷だ。出演者のなかには地方を一人で回る者もいる。そうであるなら学生や一般の人々が朗読会を催してもいいのではないか。そう遠くない未来、若い俳優たちのなかに「夏の会」の志を引き継ぐ者が現れてほしい。それこそが番組全体を通してのメッセージだろう。(旗本浩二)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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