過去完了形ではない、天安門の挫折〜BS1スペシャル「証言ドキュメント 天安門事件30年」

ギャラクシー賞月間賞:BS1スペシャル
「証言ドキュメント 天安門事件30年」

12月21日放送
20:00〜21:50
日本放送協会

 2019年6月9日放送のNHKスペシャル「天安門事件 運命を決めた50日」(50分)では、当時の総書記趙紫陽の肉声テープ、その秘書で中央委員だった鮑トウ始め、学生、人民解放軍、息子を失った親、巻き添えで負傷した市民など天安門事件にあらゆる立場で関わった人々の証言と、在中国イギリス大使館が独自収集した資料、香港に流出した当時の国務院総理李鵬の日記などから、趙紫陽の前任者である胡耀邦の追悼集会がなぜ天安門事件に発展したのかを追った。最後に当時のブッシュ米大統領がケ小平に送った書簡を紹介し、国際社会の経済優先時代の問題も示した。

 本110分版は香港のデモから始まり、「自由と民主主義を求める若者の声」を天安門事件の導入にする。胡耀邦追悼集会から「動乱」とした人民日報の社説の間にあった、党宣伝部による「世界経済導報」の胡輝邦追悼記事の強制削除も取り上げ、学生の思いが追悼・改革継続から憲法順守・民主化要求に向かう流れを丁寧に拾う。50分版ではやむなく割愛したのであろう証言も加え、天安門事件に至る過程の各段階を、政府・党、学生リーダー、学生、学生を支えた知識人、人民解放軍の将兵がどう考え、どう動いたのかを描くことで多様な当事者の姿が明確になり、事象の整理を脱して、その向こうにいる人々が見ていた現実が立ち上がった。最後に香港のデモの映像に戻り、天安門事件を繰り返していいのかという問いが暗示され、天安門事件が、決して過去完了形ではないことを示した。

 中華人民共和国建国から40年後に起きた天安門事件。それから30年、中国では政治的動乱として事件を過去に葬り、今では天安門事件を意図的に忘却した人々と、事件自体を知らない人々が多勢を占める。すでに世界的に大きな影響力をもつようになった中国を理解するうえで、その起点ともいうべきこの事件を「知る」ことは中国人か否かにかかわらず重要だろう。今思えばダイジェスト版だった50分版に留めず、110分版を制作した意義の大きさ、NHKならではの力を感じた。(細井尚子)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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