練られた脚本と8Kの映像美を堪能〜スペシャルドラマ「ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜」

ギャラクシー賞月間賞:スペシャルドラマ
「ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜」

12月30日放送
21:00〜22:13
日本放送協会

 なにより鮮烈な「血のクッキー」に惹かれる。大阪毎日新聞の専属契約の作家として上海に渡った芥川龍之介の『上海游記』に実はこの話はなく、別の『湖南の扇』に登場する薄幸の美女・玉蘭が処刑された愛人の血を浸み込ませたクッキーをかじる話と融合させている。ほか『アグニの神』などの短編を原作にしたオリジナルドラマ化は、第49回ギャラクシー賞テレビ部門大賞「カーネーション」の脚本を担当した渡辺あやの能力の高さによるところが大きい。さらに、そのセンスが上海の街並みや処刑場や水郷の超精細映像のなかで光り、独特の世界観をつくることに成功。無理にライトで補わなくても8Kカメラでは見えてしまうことを知りつくした映画カメラマン・北信康を撮影監督に起用したからこそ創り出せた映像美でもある。

 どうしても気になるのは「血のクッキー」だが、同時期に「血饅頭」の俗習が書かれた魯迅の短編『薬』を、渡航前に芥川が参考に読んだかも知れないという研究論文まであって納得できた。さらに不穏な国際情勢のなか「日米開戦はいつからか?」と占い師に答えさせようとし、主な中国の政治家を登場させ、男娼のロウロウを労働運動争議で失い、その血に浸したクッキーを皆で口にする……実によく練られた脚本で、しかもそれに応えた演者、演出陣だった。大作を応援することにいささか躊躇いはあるが、4K、8Kの特性を生かした番組制作はまだまだ試行錯誤状態。新技術を使いこなして、古くて新しい題材に挑むチャレンジ精神には惜しみない拍手を送りたい。

 芥川研究家によると生涯140の作品中、中国の伝奇・怪奇小説を題材にしているのは12編で、渡航前から中国に憧れていたことも知られている。しかし 『長江游記』などでの中国の現実を目にした失望ぶりは驚くほどなのに、1927年に自殺したときの着物は気に入っていた中国の布で仕立てた浴衣だったと番組は締めくくった。落胆しながらも、中国への敬愛ぶりがわかる。新型コロナウイルスの混乱が続く隣人に対しても敬う気持ちを忘れてはならない。(福島俊彦)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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