認知症になって知る当事者目線の痛み〜NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」

ギャラクシー賞月間賞:NHKスペシャル
「認知症の第一人者が認知症になった」

1月11日放送
21:00〜21:49
日本放送協会

 認知症になったら世界の見え方は変わるのだろうか。以前の人格は失われてしまうのだろうか。NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」は、認知症の方の人生はそうでない人と同様に続いていくこと、むしろ認知症とはそれまでの人生が凝縮された、人生の新たな局面なのだということを教えてくれた。

 本作の主人公である長谷川和夫さんは、日本の認知症医療を確立した精神科医である。その長谷川さんが認知症になった。彼は「自分の姿を見せることで、認知症とはなにか伝えたい」と、カメラを家に招き入れた。月評会では、「ドキュメンタリーは人選びで決まる、といわれるが、この魅力的な人物を見つけたことですでに成功している」と評された。彼を追うことで、認知症自体はもちろん、日本の認知症医療や介護の問題までが、「自分ごと」として見えてくるのだ。

 実は、長谷川さんが提唱した認知症診断の方法は、「あまりにも簡単なことを聞くので、検査を受ける人のプライドが傷ついてしまう」という問題も指摘されている。本作のなかで、長谷川さん自身が、自らが提唱したデイケアの活動でプライドを傷つけられる経験をする。家族の負担を減らすために勧めてきたことが、いざ自分が認知症になってみると受け入れられない。長谷川さんは、家族が大変なのは「しょうがない」と言って、居心地のいいわが家に帰ってきてしまう。

 家での長谷川さんは、時に鬱状態に陥りながらも、たいてい穏やかな顔をしている。彼にとって自宅は自分の「戦場」だ。認知症医療を確立すべく戦っていた過去の自分に戻れる場所であり、家族がそれを尊重してくれる場でもある。描かれる夫婦の関係性を見て、こんな老後を送りたいと思った人もいるかもしれない。

 ただ、家族の負担はいかばかりか。実は番組を視聴後、認知症介護の当事者から「最後に妻が弾く『悲愴』が乱れるところが、今後の老老介護の展開を思わせて怖かった」と聞いた。介護される人とする人の人生の両立。認知症研究の第一人者が、いまだ残る課題を示している。(藤岡美玲)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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