夢をあきらめない。定年後の背中を押す秀作〜テレメンタリー2020「還暦で歩む医師の道」

ギャラクシー賞月間賞:テレメンタリー2020
「還暦で歩む医師の道」

1月26日放送
4:30〜5:00
青森朝日放送

 青森県十和田市立中央病院を舞台に、訪問診療に尽力する水野隆史医師(64歳)を追ったドキュメント。複数の選奨委員がまず驚き感嘆したのが、この人物の大胆な生き方であった。農水省でキャリア官僚として夜を徹して働き続けた後に50歳で医師を目指し、5年をかけて医学部に合格、還暦で医師免許を取得。役人としての人生にひと区切りをつけ、人と直接触れ合い、役に立つことを実感できる医師として生き直したいと決意した。その一念発起のきっかけとなったのがたまたま目にした新聞記事。62歳で医師免許を取得した一人の女性医師のことを知り、その背中を追うように猛勉強を続けたという。医学部への入学を目指す面接で「医師として何年働けるのか」「あなたが医師になることで、若者の芽を摘むことになるのでは」と問われ、逡巡の末、覚悟を新たにしたという。

 水野医師は現在、地域の訪問診療を担い、高齢の患者たちを支えている。別れ際に「先生と握手すれば、死にたくなくなる」と満面の笑みを浮かべる女性。「まだ死ねないのか。早いほうがいい」とつぶやく老人に、「そんなこと言わないで頑張って」と優しく声をかけ励ます水野医師。相手の身になって考えられるのが唯一の強みと、自身について語る姿は、控えめながら人としての温かさに溢れて胸を打たれる。高齢化が進むこの国の地域医療で、医師不足の課題が深刻化するなか、医療現場に求められる人間性とは何かを深く考えさせられるシーンが丁寧に積み上げられる。

 そんな水野医師が少年のように心を躍らせて面会を果たしたのが、あの新聞記事で知った安積雅子医師(81歳)。現在仙台の病院で若々しくハツラツと診療に携わり、患者に寄り添い親身に語りかける。水野医師と安積医師の二人が語らう笑顔からは、共に同じ信念を持ち、日々挑戦を続ける同志としての絆を感じた。

 定年後の生き方が問われる時代に、夢を諦めずに努力を重ねさえすれば、誰にでも何歳になってもチャンスがあることを示唆し背中を押してくれる、確かなメッセージが秘められた秀作である。(小泉世津子)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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