フェイクはやがて、私たちを殺す〜NHKスペシャル デジタルVSリアル(1)「フェイクに奪われる“私”」(2)「さよならプライバシー」

ギャラクシー賞月間賞:NHKスペシャル デジタルVSリアル
(1)「フェイクに奪われる“私”」
(2)「さよならプライバシー」

4月5日、12日放送
21:00〜21:50
日本放送協会

 「水道水にコロナ」「マスクの次はトイレットペーパーが消える」。ウイルスのように拡散するデマが意図的に利用されたら。フェイク技術とAIの進化でモンスター化するフェイクの現状を全2回で追った。

 冒頭、メキシコの群衆が1人の若者を殺害する映像にショックを受けた。彼を凶悪事件の真犯人とするデマ情報がSNSで猛スピードで拡散され、正義感に血が上った人たちが群衆化。真偽も確かめないまま無実の人間を襲った。驚き、嫌悪感、怒りを刺激するフェイク情報は真実の20倍の速さで拡散するとし、その厄介さは、誰にも等しく向けられていると訴える。

 実際、生活の根幹である選挙はフェイクの主戦場だ。米大統領選や台湾総統選を入り口に、「いいね」の水増しやリツイートの大量拡散がいとも簡単に行われる手口が描かれた。「大統領候補が兄弟を殺した」などのデマを世論化して稼ぐマーケティング業界の“フェイク王”は、よく考えずにリツイートする現代人に笑いが止まらない。「みんながあと1分だけでも記事を読めば、フェイクは何の影響も与えないのに」。説教強盗に真理を突かれたようで、もやもやする。

 ウソをでっち上げるフェイク動画が、真贋の見分けがつかないレベルに進化したこともフェイクを増長させる。対抗手段を探る取り組みが「よく考える大事さ」というアナログベースな現状ももどかしい。身に覚えのないことで、次に群衆の標的になるのは自分かもしれないというリアルが分厚く忍び寄る。

 その際、自分自身を証明するプライバシーも虫の息だ。検索履歴、ショッピング履歴、位置情報、SNSの投稿データから、その人の分身「デジタルツイン」を作って会いに行く実験。顔や個人情報はおろか「彼女いない歴」や「近々体調を崩す」ことまで的中できていて、技術が悪用された実例も身近だ。

 個人のプライバシーは丸裸にされ、素手でフェイクと戦わなければならない時代。恐怖を感じる一方で、1時間後にはネットで普通に買い物をしている自分に、どう折り合いをつけるべきか悩む。(梅田恵子)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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