「新型コロナウイルス」 報道「政治」 × 「専門家」 のブラックボックスをこじ開けろ

報道番組に喝!【NEWS WATCHING】88
文=古川柳子

 新型コロナ禍でテレビのなかの風景は一変した。グルメレポートや芸人を集めて騒ぐ企画は制作不能となり、4月新作ドラマもほぼ全滅。報道番組やワイドショーはネット会議の画面を見るようだ。5月初旬に書いているこの原稿が読まれるとき、状況はかなり変わっていると思うが、進行中の事態を記録しておこう。

「緊急事態宣言延長会見」の唖然

 5月4日、安倍首相は非常事態宣言を5月31日まで延長すると記者会見で発表した。感染経路不明な新規感染者数が一定以下にならず、医療体制の逼迫が改善されないことが理由として挙げられたが、1カ月前とほとんど変わらない会見内容に唖然とさせられた。非常事態宣言は人々に厳しい自粛を求める一方で、政府が必要な対策整備の時間を確保するために出されたものではなかったのか? 検査や医療の体制の逼迫を解消するために、どういう手が打たれ、現状がどこまで進み、どんな状況になったら緊急事態解除ができるのか。さまざまな限界に直面している人々への支援策をどうするか等々、具体的な話は首相の口から一切出なかった。

 だが、さらに驚いたのは、この無策に対する本質的な問いかけや追及が記者たちから起こらなかったことだ。逼迫する医療現場や生活の危機に瀕している人々にとって、政府の無策は死活問題だ。しかし、多くのニュースは非常事態延期を既成事実のように伝え、どこか他人事で、切実な疑問や危機感が感じられない。

 そんななか、当事者たちの苛立ちが画面から噴き出していたのがBS-TBSの「報道1930」だった。この番組はスタジオに当事者を呼び、松原耕二キャスターのインタビューでその日のテーマを掘り下げるスタイルで、新型コロナ問題も地上波に先駆け継続的に追及してきた。出演者がよくありがちな素人コメンテーターではなく、医療、政治、経済などの「当事者」で、その本音を引き出そうとする姿勢がいい。

 非常事態宣言延長の記者会見で、政府専門家会議の尾身茂副会長は出口対策のためにも重要なPCR検査が伸びない理由を並べ挙げた。「報道1930」ではその翌日、早くからPCR検査の拡充の必要性を訴えてきた倉持仁医師が画面で怒りを露にした。独自に発熱外来の対策をしてきた自らのクリニックの診療状況の映像がその怒りを裏づける。「何もしてくれないなら、せめて医療現場の足を引っぱらないでくれ」と痛烈だ。ある飲食店主の倒産の危機も、具体的にその店の収支が公開されると説得力が増す。スタジオ出演していた与野党議員(佐藤正久、長妻昭)も家賃補助のスピードアップの切実さを共有していた。

 それにしても、日本におけるPCR検査をめぐる議論は異様だ。医師が頼んでもPCR検査が受けられず、無症状感染者が院内感染を引き起こす事態が続発しても、きわめて限定的にしかPCR検査を行わない政府や専門家会議の方針に対し、疑問を呈する感染症や公衆衛生の「専門家」は多かった。ところが、「いたずらに検査数を増やすと希望者が病院に殺到して医療崩壊を起こす」という言説は根強くまかり通り、PCR検査拡充を訴える言論人や番組を政府批判とすらみなす空気があった。

 「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などは、医療関係者との検討から、クラスター(集団感染)対策だけで孤発性感染者の増加は抑えられないことを指摘。PCR検査の拡充と発熱外来の制度化などをセットで訴え続けていたが、ネットでの攻撃が絶えなかった。だが結局、彼らが指摘してきたことが次々と現実のものとなってしまった。いまだに大学や民間のPCR検査能力が十分活用されていないとはあまりにも遅すぎる。この期に及んで「37.5度以上の熱が4日間継続」が検査基準と考えられたのを「誤解だ」と厚生労働大臣が発言するなど言語道断。それを基準と考え、手遅れになった人々がいることを考えると、報道した者ももっと怒るべきではないのか。

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