〈特別編ヨーロッパ事情2〉新型ウイルスから、放送を守るドイツ・オーストリアの「対策」

文=ジャーナリスト
稲木せつ子

番組出演者もウイルスに感染

 3月末、ドイツの人気番組「覆面シンガー」(*1)が急遽放送中止になった。理由は歌のコンテスト参加者の感染が放送前日に判明したためだ。同番組は、観客動員を止めるなどの感染予防をして生放送を続けてきたが、制作内から脆くも安全対策が崩壊した。濃厚接触者となった制作陣にも、2週間の自宅隔離が課せられている。

 番組は再開されたが、今度は準決勝の審査員に起用されていたオーストリアのタレントが、ドイツの空港で足止めを食らった。感染で国境が閉鎖されており、警察が入国拒否したのだ。出演は、ぎりぎりの交渉で実現した。

 いつもなら、大勢の観客を入れて生放送するドイツ版「どっきりカメラ」(*2)も様変わりした。巨大なスタジオに司会者ら3名だけが離れて着席、他のゲストは自宅からのリモート出演だ(写真上)。マスクをした番組の制作スタッフが観客代わりに拍手などするのだが、事情はわかっていても、今一つ盛り上がりに欠ける。

手間とお金がかかる制作現場

 舞台裏も変わった。多くのリモート中継をさばくために番組を制作する放送局(SWR)は新システムを導入した。ビデオ回線がつながった出演者は「バーチャル控え室」で待機する。音声チェックや番組制作担当との直前打ち合わせもこのシステムで行われるが、SWRでは感染防止のために、ワークフローを切り分けて作業している。リモート出演者と打ち合わせする制作部屋、音声や画質の調整をする技術部屋、生放送する中継車の3つに分かれている。

 ドイツでは規制緩和の動きが見られるが、制作現場では楽になる気配はない。むしろ、ドラマなどの制作現場では、感染を懸念して、厳格な対応を求める声が業界内から上がっている。5月6日にドイツの映画・放送職業団体が出した安全確保のための制作ガイドラインによると、制作側は撮影開始前に衛生担当官を任命し、感染予防のための安全計画を立てる必要がある。そして、出演者や撮影スタッフ全員に、毎日、感染検査を受けさせる必要があるほか、マスクや消毒薬などの手配、撮影から編集まで、充分な場所や機材の確保などが求められている。

 ガイドラインは、「安全を優先するために、制作ペースが遅くなり、経費がかさむ」ことを強調し、放送局に負担を求めている。予算オーバーでドラマ制作を再開するか、場つなぎ的な生番組に依存するか、こちらの放送局は難しい選択を迫られているのだ。

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