鉄道という「メディア」を再発見する〜新日本風土記スペシャル「松本清張・鉄道の旅」

ギャラクシー賞月間賞:新日本風土記スペシャル
「松本清張・鉄道の旅」

5月8日放送
21:00〜23:00
日本放送協会 NHKエンタープライズ かわうそ商会

 東京駅を出発する「あさかぜ」は、東京から九州へとひた走る夜行寝台特急。のちに“ブルートレイン”として人々の憧れを集めた列車の代表だ。松本清張が代表作のひとつ、日本の時刻表ミステリーの出発点ともなった『点と線』を書いたときは、まだブルーの20系客車ではなかったが、都市と都市とを結ぶ長距離列車の持つ独特のセンチメントは、ミステリーに実によく調和する。

 列車はただ人を運ぶだけではない。さまざまな人生と人生とを出会わせ、また人によっては列車が人生そのものでもあったりする。いつもは一つの場所と物事とに腰を据えて、そこでさまざまな人生を追いかけてゆくこの番組が、今回は松本清張の作品に乗って、日本中の人生を巡る旅に出る。旅を愛し、社会を旅し、歴史を旅した作家の、その作品の足跡を巡ってゆく。あの名作の舞台や、その秘話を探り出すことはもちろん、松本が感じたであろう人の匂いや、人との関わりが語られてゆく。

 するとそこには鉄道が、ただ人と物とを運ぶ道具なのではなく、それ自身が社会や時代を、そのなかを生きる人々を語るものなのだということが浮かび上がってくる。松本清張は、舞台として、道具として鉄道や地域を登場させているわけではない。鉄道の持つ独特の感情を読み込み、鉄路の先で出会った数多くの人生たちと会話し、そこを愛し、そして手に入れたものを描くことで多くの作品を紡いでいたのだということが見えてくる。

 思えばこの国は明治以来、鉄道と共に歩んできた。長距離近距離を問わず鉄路で地域をつないできた。のちに自動車や航空機が発達しても、なぜか人々はいつも鉄道に思いを寄せる。駅と駅、街と街とを結ぶ鉄道という「メディア」そのものが、日本独自の文化と社会とを作り上げてきたのかもしれない。古代史に造詣が深く社会派と言われた偉才・松本清張は、そんなこの国の深層構造を見ていた。それを再発見させてくれる良質な紀行である。(兼高聖雄)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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