世界は、彼らのことを忘れている〜BS1スペシャル「レバノンからのSOS〜コロナ禍 追いつめられるシリア難民〜」

ギャラクシー賞月間賞:BS1スペシャル
「レバノンからのSOS〜コロナ禍 追いつめられるシリア難民〜」

7月12日放送
22:00〜23:50
日本放送協会

 番組が始まってすぐに、レバノンの難民キャンプで暮らすシリア難民の青年が、焼身自殺した自分の父親の死を語りながら、涙声だが強い調子でカメラに向かってこう言った。

 ――世界は確実に僕らのことを忘れている。

 世界中のメディアが各地の新型コロナ禍を報道している。武漢で、ヨーロッパの各国で、ニューヨークで、ブラジルで、そして東京で。どの地域の事情も深刻で、感染拡大の恐れが語られ、対策が講じられ、治療や防御に取り組む医療関係者の活動が報道された。

 しかし、このドキュメンタリーはコロナウイルスの蔓延が世界で最も劣悪な環境の下で暮らす人々に最も深刻な影響を与えたことを伝えた。いまシリア難民は絶望の淵に追いつめられている。

 冒頭の発言をした青年の父親は9人家族を抱えた52歳の働き盛りだが、仕事はなかった。自らガソリンをかぶって火を放ち、全身に大やけどを負って亡くなったが、瀕死の病床で息子に呟いたという。

 「パン一袋も買えないようなこんな暮らしでいいのか、もう耐えられない、生き延びるのがつらい」

 レバノン政府はコロナ感染拡大防止のため、3月、非常事態宣言したが、外出禁止措置がシリア難民から日々の仕事を完全に奪った。120万人とも150万人ともいうレバノンのシリア難民に対して、レバノン政府は冷淡だし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援も十分には届いていないのが実情だ。

 そして、日々の暮らしのための収入を得る手段として彼らに残されているのは臓器売買と売春――という悲しくも切実な状況が明らかになる。

 どのインタビューも伝聞や噂によるものではなく、当事者の言葉を正面から果敢に捉えている。ケレンのない大胆かつ柔軟な取材である。腎臓を切除した脇腹の傷痕も、「仲介料に約7万円もらう」とあけすけに語る臓器売買の仲介者の言葉も、自らの売春体験を、涙で声を詰まらせながらも直截に語る若い母親の表情も、どれもシリア難民の現実なのだ。(戸田桂太)

★ギャラクシー賞月間賞とは?=NPO放送批評懇談会が、優れた番組を自主的に選び出す制度。月間賞に選ばれた番組は、年間のギャラクシー賞審査に自動的にエントリーされる。

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