大坂なおみ、「勝負師の資質」が将来のグランドスラム制覇を“現実”にする

大坂なおみ、「勝負師の資質」が将来のグランドスラム制覇を“現実”にする

女子では最高レベルのサーブとフォアハンドを武器に、将来のグランドスラム制覇が期待される大坂なおみ。(写真:Getty Images)

 乾いた破裂音が鳴り響いたその刹那、ボールは相手コートに突き刺さり、誰のラケットにも触れることなくベースライン後方のフェンスに跳ね返る……。

 瞬きも許さぬそのスピードに、観客席から沸き起こる感嘆の声。続いて、サーブ速度計に表示される時速125マイル(約201キロ)の数字に、再び驚きの声が上がる――。

 大坂なおみがコートに立つ時、それは見慣れた景色になりつつある。周囲の喧騒をよそに一人表情を崩さぬ180センチの彼女が、鋭く振り抜く右腕でさらにポイントを奪い取り、勝者として名乗りを受けるのも今やよく見る光景だ。

 今季初めてグランドスラム本戦の大舞台を経験した大坂は、3大会連続で3回戦進出。濃密なる6試合で勝者として名を呼ばれた。

 世界ランキング127位で迎えた1月の全豪オープンでは、予選3試合全てをストレート勝利で勝ち上がり、本戦でも2つの白星を連ねて3回戦へ。初めて“トップ100ランカー”として予選免除で出場した5月の全仏オープンでも、やはり2勝を挙げて3回戦に到達。ウィンブルドンは膝の故障のために欠場したが、先日の全米オープンでも三たび3回戦の舞台へ。しかも、いずれの大会でも3回戦に到るその過程で、シード選手を破る金星を手にしている。

 全豪では21位のエカテリナ・スビトリーナを撃破。全仏では36位のエレナ・オスタペンコ破った上で、3回戦では6位のシモナ・ハレプとフルセットの熱戦を演じた。全米でも初戦で30位のココ・バンダウェイを退けると、3回戦では地元アメリカの9位マディソン・キーズ相手に、勝利まであと2ポイントに迫った末の惜敗。これらの戦績が、大坂が「ビッグゲームに強い」と呼ばれる所以であり、近い将来トップ10を狙いうる逸材だと、誰もが認める理由である。

「どうして、グランドスラムに強いのか?」

 それは重ねる勝利数に比例して、聞かれる頻度も増す問いだ。大坂の試合後の会見室には、常に開催国の地元記者や、アメリカ、イギリスなど主に英語圏の取材者たちも顔を並べる。日本語以上に英語を流暢に語る日米ハーフの18歳は、そのたびに「心のどこかで、これは凄く大切な大会だと思っているからかしら?」と、小首を傾げつつ小さな声で答え、はにかんだ笑みを浮かべるのが常だ。コート上で見せる豪胆なプレーとあまりにかけ離れたその姿は、時に微笑ましく、時にミステリアスに見る者たちの目に映る。

 大舞台に強い大坂の“勝負師の資質”は、世界にその名をセンセーショナルに轟かせた、16歳の頃に既に見て取ることができた。2年前の7月、まだランキング400位台だった大坂は、当時の世界19位にして2011年全米優勝者のサマンサ・ストーサーを、フルセットの大接戦の末に下したのである。驚くべきは、世界的に全く無名の16歳が、初めて立つWTAツアー大会のセンターコートで考えていたこと。

「観客は、誰も私のことを知らない。当然、みんなスター選手のストーサーを応援する。ならば私は、ファンの度肝を抜くような“特別なこと”をしてやろう」

 それが大坂の誓いであり、彼女の言う“特別なこと”とは、最大の武器であるサーブとフォアハンドであった。時速200キロに迫るサーブと快音を轟かせるフォアの強打が、狙い通り観客の驚嘆の声を生み、徐々に彼女への声援と変わっていく。プレーする姿で歓声を生み、見る者を惹きつける稀有な魅力を、この頃から彼女は備えていた。

 目指す選手像は「観客に楽しんでもらえる、エンターテイナー」。「将来の夢は?」というありきたりな質問には、「ありきたりな答えだけれど」と囁くように前置きしながら「世界1位と、可能な限り多くのグランドスラムで優勝すること」と即答する。

 フットワークやポイントパターンの習得など、まだまだ学ぶ点が多いことは、本人が誰よりも自覚している。それでも、謙虚で野心に満ちた18歳は、いつの日か自分が世界の頂点に立つことを疑わない。轟くサーブの破裂音が、1万を超える観客の大歓声を引き起こし、グランドスラムのセンターコートで勝者として名を呼ばれる、その日の訪れを――。(文・内田暁)

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