世界選手権で躍進 “柔道復活”の秘密と世界連盟の嫌がらせ

世界選手権で躍進 “柔道復活”の秘密と世界連盟の嫌がらせ

東京五輪でもこんな光景が見られるか(C)共同通信社

「団体戦は全く危なげない試合で、日本の圧勝といえる。個人戦と合わせて8つの金メダルを獲得し、日本の活躍だけが目立った大会だった。2020年の東京五輪に向けて、日本柔道の可能性を広げてくれた」

 メダルラッシュに沸いた柔道の世界選手権(ブダペスト)。最終日の日本時間4日に行われた男女混合団体戦の決勝でもブラジルを6―0と圧倒し、全日本柔道連盟の山下泰裕会長は破顔一笑で胸を張ってみせた。

 個人戦では男女計14階級で金メダル7個、銀メダル4個、銅メダル1個を量産。特に男女混合団体戦は、山下会長自ら20年東京五輪での採用を提案し、「1億円を超える入場料収入が入る」とIOCに掛け合って実施にこぎつけた肝いりの種目だけに、日本が「世界選手権初代王者」の称号を手にして笑いが止まらなかった。

 日本柔道は12年のロンドン五輪で、金メダルが女子57キロ級の松本薫だけに終わる惨敗(銀3、銅3)。特に男子は五輪史上初となる優勝ゼロという屈辱にまみれた。

「ロンドン五輪直後に就任した男子の井上康生監督(39)を中心に、さまざまな改革に乗り出した成果が実を結んでいるのは確かでしょう。精神論、根性論を排除して、強化合宿での練習はそれまでの『質より量』から『量より質』に大転換。ボディービルや栄養学の専門家を招き、食事面も含めて科学的なトレーニングを取り入れた。井上監督がコーチ時代から提唱していた『担当コーチ制』の復活も大きかった。各階級の担当コーチが、選手の所属先と強固なパイプを構築して、選手の強化を連携して行えるようになりましたから」(柔道関係者)

 柔道の“ID化”にも力を入れた。全日本柔道連盟科学研究部を中心に約1万試合のデータを収集、分析して国内外の強豪選手を数値化。選手個々の弱点、技の比率やポイントを取った時間帯、国際試合を担当する審判の傾向まで調査対象にして、情報を共有するようになった。

 それが、15年の世界選手権(カザフスタン)で金8、銀4、銅5の躍進につながり、昨16年のリオ五輪での金3、銀1、銅8と復活の足掛かりになったのは確かだ。

 気の早いスポーツマスコミは例によって「お家芸復活」「最強ニッポン」「東京五輪でもメダルラッシュ」と大騒ぎしているのだが、今大会の結果は信用していいのか。辛口の柔道関係者に言わせれば、男子が全階級でメダルを獲得したリオ五輪の結果も、

「前年のカザフスタンでの世界選手権と比較すれば、リオでの男子の金2個は後退したともいえる。ライバル国に研究された結果でしょう。五輪翌年の今大会にしても、強豪国は世代交代の時期でトップ選手も調整段階。五輪は別物と考える必要はある」

 と言う。

「個人戦での7個の金メダル獲得は評価できますが、今大会の結果は決して手放しで喜べるものではありません」と柔道ライターの木村秀和氏がこう続ける。

「100キロ級で優勝したウルフ・アロンはともかく、男子は81キロ級以降、女子は重量級に不安を残しました。特に優勝が確実視された81キロ級の永瀬(4回戦敗退)、100キロ級の羽賀(2回戦敗退)、女子78キロ級の梅木(銀メダル)の前回覇者3人が勝てなかったのは厳しい。永瀬は完璧な組み手にこだわり過ぎて技が繰り出せずに最後は右膝を負傷して反則負け。梅木にしても決勝では左のつり手が取れずに、相手にことごとく崩された。今の柔道では早く仕掛けて、組み手が不十分でも技が繰り出せないようでは世界では勝てない。73キロ級金の橋本は5割の組み手でも技を決めていた。東京五輪で全階級メダルを狙うのであれば、もう一度、重量級の分析、対策が必要だと思います」

 しかも、山下会長が「日本の活躍だけが目立った」と自画自賛した今大会の結果を受け、国際柔道連盟(IJF)は今季から試験的に導入した新ルールを改正する可能性も指摘されている。

 新ルールでは技の攻防を重視。「有効」や「合わせ技一本」は廃止され、男子の試合時間が5分から女子と同じく4分に短縮された。さらに、「指導」の差では決着はつけず、「一本」や「技あり」がない場合、延長に入る。今大会でも多く見られたように延長に入れば、パワーでは劣っても投げ技に長けた日本勢は優勢勝ちに持ち込めるため、海外勢に比べて有利とされる。この新ルールは、今回の世界選手権の結果を検証して、最終決定されることになっているのだ。

「今回の日本の躍進をIJF幹部は苦々しく思っていることでしょう。『指導』の数で決着をつけるなど、何らかのルール変更は十分に考えられます」(前出の木村氏)

 メダルラッシュに浮かれていては、それこそ足をすくわれかねないということだ。


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