91年東京世界陸上の運営責任者 マラソン・競歩の札幌開催に大反論

東京五輪マラソンの札幌開催案に陸連顧問の帖佐寛章氏が反論「走りやすいとは言えず」

記事まとめ

  • IOC会長は17日、東京五輪のマラソンと競歩会場について「札幌に変更する」と述べた
  • 91年東京世界陸上の運営責任者で、陸連顧問の帖佐寛章氏は、札幌開催案に大反論
  • 帖佐氏は「真夏の札幌は東京よりも必ずしも涼しいとは言えない」と指摘する

91年東京世界陸上の運営責任者 マラソン・競歩の札幌開催に大反論

91年東京世界陸上の運営責任者 マラソン・競歩の札幌開催に大反論

9月の世界陸上50キロ競歩で金メダルの鈴木雄介(C)共同通信社

マラソンは五輪の花形種目だ。過去に開催都市を離れて行われたことは一度もない。IOC(国際オリンピック委員会)会長の言いなりになっている場合じゃない」

 こう言って激怒するのは、日本陸上競技連盟(陸連)の強化委員長や専務理事、副会長などを歴任した帖佐寛章氏(現顧問)だ。

 IOCは世界陸上ドーハ大会が閉幕(6日)した翌週の16日、2020年東京五輪のマラソンと競歩会場を、東京から札幌への変更を検討していると発表。17日にはIOCのトーマス・バッハ会長が、「(日本の)組織委員会との協議の結果、札幌に変更することに決めた」と述べた。

 30日から都内でIOCの調整委員会がある。そこで正式に「札幌開催」が決定するもようだが、前出の帖佐氏は、こう語る。

「選手の健康が第一と考えるなら、札幌開催は説得力がない。マラソンと50キロ競歩が行われる同日の過去10年間の気温、湿度を調べた。マラソンのレース終盤(8時)のデータを見ると、札幌は東京より平均気温が約5・2度低いが、湿度は高い。東京は70%を超えたのが6回に対し、札幌は9回。50キロ競歩(9時)も札幌の方が気温は約3・7度低いものの、湿度70%超はそれぞれ5回(平均値=東京71・5%、札幌70・5%)。8月の北海道マラソンも厳しい暑さの中を走ることもある。真夏の札幌は東京よりも必ずしも涼しいとか、走りやすいとは言えないぞ」

■札幌ドームは未整備で標高70メートル

 さらに帖佐氏は「札幌開催の問題点はまだある」と言ってこう続ける。

「私は教え子が北海道にもたくさんいる。発着点になると言われている札幌ドームについて聞いた。まず、陸上トラックがないし、ロードに出ていくゲートもない。幅が4メートルぐらいの荷物の搬入口があるだけ。そんな狭いところは選手同士がぶつかるのでマラソンゲートにならない。陸上トラックとゲートの整備に10億円かかるという報道もある。この費用はどうする? しかも、札幌ドームを出たら国道36号を札幌の中心街に向かうわけだが、往路は長い下り。復路は逆に長い上り坂になる。ドームの標高は約70メートルだからマラソンコースには向かない。IOCはそこまで知らないだろ。IAAF(国際陸連)によるコース計測の作業にもかなりの時間を要する。そもそもIOCが札幌にドーム球場があることなど知っているはずがない。ドームなら観客席に5万人ぐらい入る。販売されているチケットの料金を払い戻さずにすむ。入れ知恵した者がいるんだろうな」


理論武装するべきだった

 帖佐氏の怒りは、競技団体にも向けられた。

「ドーハの世界陸上は、暑さを避けるためにマラソン、競歩が深夜スタートになった。あれはIAAFの大きなミスだ。世界陸上で真夜中に競技をやったのは過去に例がない。現地の人が寝ている時間に国際レースを行うのは不見識だ。深夜のレースでも、女子マラソンは68人中、途中棄権が28人。男子50キロ競歩も46人中18人が途中棄権した。東京五輪を控えるIOCはあの結果に衝撃を受けたんだな。東京五輪で同じことが起これば、世界から批判の声が噴出するということを恐れたのだろう。世界陸上の後に、何かしらのアクションを起こすことは予想できた。それでなくても東京五輪の猛暑はここ数年、マスコミのネタになっていた。陸連は医事委員会が動くなり、国立スポーツ科学センターの力を借りるなどして、『マラソンも競歩も東京で大丈夫です』と言えるだけの理論武装をしておくべきだった。『マラソン、競歩は札幌で分離開催する』と言われ、東京都は慌てて『マラソンのスタートは5時前にします。競歩は日陰のあるコースに変更します』とIOCに提案したそうだが、そもそも、日陰のまったくない皇居前の周回コースで競歩をやるなんて誰が考えたのだ。それこそ人道上の問題だ。ドーハで金メダル(50キロ競歩)を取った鈴木雄介はレース終盤、立ち止まって給水していただろ。あれは『止まって飲まないと水が喉を通らなかったからです』と言ってたよ。ああなると、もうスポーツではない。東京五輪の競歩を皇居前で行えば、ドーハ以上の厳しいレースになることは間違いない。もう一度言うが、それはスポーツではないぞ。マラソン、競歩の札幌開催の報道が出てから、関係者は右往左往している。国内で歓迎しているのは札幌の人たちぐらいじゃないか。先日も日本陸連の事務局長に言ったんだ。『陸連の足腰がしっかりしてないから、こういうことになるんだ』と。IOCに言われっぱなしでは情けないだろ」

 帖佐氏は陸連の専務理事だった91年の世界陸上東京大会の運営責任者だった。男子マラソンは谷口浩美が金メダル。女子は山下佐知子(現東京五輪ナショナルチーム女子強化コーチ)が銀メダル。50キロ競歩は今村文男(現陸連競歩強化コーチ)が7位入賞と健闘した。

「IAAF現会長のセバスチャン・コーは朝日新聞のインタビュー(9月10日付)で『91年の東京での世界陸上は歴代最高の一つ。大会運営の質が素晴らしく、今も語り継がれている』と言ってくれた。運営責任者としてはうれしいよ。マラソン、競歩は高温多湿の中、途中棄権者が多数出た(※)が、あれから28年も経ている。情報もあるし、暑さ対策の研究も進んでいる。来年の五輪は遮熱性舗装やミスト、大型扇風機などを導入する。さらに日差しを遮る工夫をし、給水ポイントを増やすなどすれば、マラソンは6時スタートでいける。すでに世界中の選手が夏の東京をイメージして練習を重ねている。東京都が提案する5時前スタートでは、選手は1時ごろに起きることになる。選手はしっかり調整すると思うが、競技をサポートするスタッフやボランティアなど約600人以上は徹夜だ。そんな時間では沿道で声援を送ってくれる観客もまばらだろう。夜のレースは警備上の問題から無理だ。50キロ競歩は皇居前のコースを変更する。91年と同じく国立競技場から青山通りに出る周回コースを提案する。陸連はIOCに言われっぱなしではなく、マラソン、競歩を東京で行うためにもっと汗をかくべきだ。近代五輪誕生とともに生まれたマラソンは他の五輪種目とは違う。IOCは故事来歴を軽視してはいかんよ。最終日に行う意味を忘れては困る」

(※)男子マラソン(9月1日、スタート6時、気温26度、湿度73%)は60人が出場し、24人が途中棄権。谷口浩美が世界陸上では日本人選手として史上初の金メダルを獲得。女子マラソン(8月25日、スタート7時、気温26度、湿度70%)は出場38人、途中棄権14人。山下佐知子が銀メダル。男子50キロ競歩(同31日)のスタートは7時。台風の影響で横殴りの雨の中も、3時間後には快晴となり、気温30度、湿度97%を記録。完走は38人中24人。今村文男が日本競歩史上初の7位入賞を果たした。

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