広島カープ快進撃 緒方監督が断行した「長野戦力外」采配

開幕から5カード連続で負け越した時点で、優勝の可能性は「ゼロ」だった緒方カープ。しかし、元号が改まると上昇気流に乗り、ついに首位に浮上した。勝因は色々ある。「外部補強よりも生え抜き」の原点回帰もその一つ。長野久義(34)は必要だったのか。

 「レフトを西川龍馬、一塁をバティスタで守備陣形をほぼ固定できたことが大きい。センターを守っていた丸佳浩が抜けた守備面の穴は野間峻祥の成長で埋まりましたが、レフトのレギュラーを予定していた長野が守備でミスを連発してしまいました。守備での不安が打撃にも影響しています」(スポーツ紙記者)

 長野はかつてゴールデングラブ賞も獲得した守備の名手だ。しかし、レフトが苦手という変な欠点を抱えていた。おまけにベテランのため、スロースターター。巨人時代から、打撃面で本来の当たりを取り戻すのに相当の時間を要していた。

 そこで、緒方孝市監督(50)は決断した。序盤は長野を含め、バティスタ、松山竜平、坂倉将吾らを日替わりでレフトに併用していたが、24歳の西川に賭けたのである。

 「監督就任1年目の’15年、やはり負けが込んでしまいました。当時の緒方監督は昼すぎに球場に来て、監督室にこもっていました」(球界関係者)

 今回は1人で悩まなかった。4月30日の阪神戦に敗れた後、緒方監督は迎祐一郎、東出輝裕の両打撃コーチを呼び「打順」について話し合った。当然、話し合いは守備位置のことについても及んだ。

 この時、一番を打つ田中広輔の不振も議題に上った。野間を新一番とするところまではスムーズだったが、問題はレフトだ。打撃優先ならバティスタ、経験値なら長野か松山。3人で話し合った結果、レフト西川、ファーストにバティスタという布陣が決まった。

 「西川の打撃センスは丸にも引けを取りません。将来を嘱望される1人ですが守備難で、サードのレギュラーを取り損ねており、外野転向はチャンスでした」(前出・スポーツ紙記者)

 西川に期待する声は確かに大きかったが、丸のFA流出にともなう人的補償が長野と発表されると、その話はいったん立ち消えとなった。ファームで打撃面での急成長が報告されていた捕手の坂倉に外野練習をさせた昨秋キャンプの時もそうだったが、それでも腐らずに、西川は必死にバットを降り続けた。

 両打撃コーチが「4番の鈴木誠也の後を打つバッターが大切」と緒方監督に進言し、西川を推薦した。西川は2人の期待を裏切ってはならないと決意を新たにしたそうだ。

 「バティスタを一塁に固定することで、チーム全体の守備難も解消されたようです。長野がレフトを守れない、代わりの選手も不慣れでさほど守備が巧くない。こういう状態を解消できたのが、5月快進撃の勝因です」(同)

 西川は4番・鈴木誠也が四球で歩かされた後、打席に立つことも多い。走者のたまった場面であり、適時打が出れば、試合の主導権を握れる。しかし、単に主導権を握るためだけでなく、レギュラー獲得にもっとも苦労した若手を活躍させることで、チーム全体を活気付けようとした。

 「選手たちも西川の努力を知っていましたからね。鈴木の後を打つ5番がチーム浮上のカギになると見られていました。長野ではなく、西川を抜擢していなければ、5月25日までの11連勝なんて躍進はありませんでした」(同)

 また、陽気なドミニカンのバティスタだが、普段はけっこう神経質だという。走者のいる場面で打つのは3番も同じだが、「主砲・鈴木の後」という“無言の圧”に潰されてしまわないように緒方監督が配慮し、「3番バティスタ、4番鈴木、5番西川」の新打順が編成されたのだ。ここでもやはり、外部補強よりも生え抜きだ。

 「投手陣では床田寛樹がもっと評価されてもいいと思います。久々に出てきた生え抜きの左の先発投手です」(プロ野球解説者)

 広島は先発、中継ぎともに好投手が揃っている。しかし、どういうわけか、これまで左の先発投手が出てこなかった。

 「一昨年、床田は左ヒジにメスを入れています。本当は昨季終盤から先発が務まりそうと評価されていましたが、首脳陣は焦りませんでした。二軍で少しずつ投球イニング数を増やしていきました」(関係者)

 これも、育成の広島らしい愛情である。

 「長野が周囲に漏らしていたんです。広島移籍が発表されたのは1月半ばでしたが、年末には巨人、広島両球団の間で合意していたと…。広島行きの準備をしながらの年越しでしたが、レフトの守備を甘く見ていたようです」(同)

 かつて、カープのレジェンドである鉄人・衣笠祥雄氏が生前、こんなことを言っていた。

 他球団と比較するならば、読売ジャイアンツは「アスファルト」できちんと舗装されたチームで、広島は「土」だと。アスファルトで覆い固められてしまうと、地面の下から芽が出るような余地がない。ところが、土には新しい芽を育む可能性が潜んでいる――。

 長野が真摯に「広島の人間」になろうとしているのは本当だ。だが、若い芽を次々に育んでいくという原点回帰を決めた緒方采配で覚醒した新戦力たちの快進撃は止まりそうにない。

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