元プロ野球選手、里崎智也と漫画家・森高夕次が語る「好きなことを仕事にするのは幸せなのか?」

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活躍すれば億単位の年俸が稼げるプロスポーツ選手は夢があり、今でも「なりたい職業ランキング」で上位です。千葉ロッテマリーンズの主力選手として16年プレーし、2度の日本一に貢献した里崎智也さんは、11月17日に上梓した新書『シンプル思考』で「人生を豊かにするために一番大事なのはお金」と、独自の価値観を綴っています。

今回の記事では「グラウンドにはゼニが落ちている」をテーマに、球界の表舞台のみならず裏側も丁寧に描く野球漫画『グラゼニ』の原作者・森高夕次さんと対談。

そこで語られる掛け値なしの「プロ野球とお金」の現実。華やかな世界で生き残ることが幸せなのか? 堅実な人生に切り替えることも、成功への近道かもしれません。

■「好きなものを仕事にする」ことの現実

森高 里崎さんの『シンプル思考』、とても興味深い話ばかりですね。3時間くらいで読破してしまいました。

里崎 ありがとうございます(笑)

森高 この本ですごく共感したのは、里崎さんが大学時代の監督さんとのお話で「プロ野球も仕事なんだから、活躍できる球団に行ったほうがいい」と。そこに尽きると思うんです。僕も学生時代に野球をやっていましたが、もしまかり間違ってプロを目指せるような才能があったらどうだっただろうか? なくて良かった(笑)。 僕は漫画家にしかなれなかったけどそれで良かった。そこに里崎さんの言う「活躍の場」があったから。

野球も漫画も「試合に出られる場所」がいいと思うんですよ。その対価としてお金が稼げるからこそ「どんどん新しい作品を描きたい」って思えてくる。

里崎 僕も同じですよ。好きで始めた野球が仕事になって、「引退してから仕事しなくても生きていけるように、ここで一生分のお金を稼がないと」と思って。無駄遣いしたくないから、税理士の先生と計画してきたことなんです。だから、今は好き勝手できているっていうのもあるんですけど(笑)。

森高 「税理士の先生と計画」って、そこ気になりますね(笑) プロ野球選手は大金を稼げるとはいえ、それを実現するためには結果を残さないといけないし、プレッシャーだって相当だろうし。仮に稼げたとしても、引退してからはどんなに実績を残した選手だって収入は減る。でも、生活レベルは下げられないから、引退後に結構、お金で苦労する人が多いと聞きますけど。

里崎 現役中からお世話になっている税理士の先生って、僕以外のプロ野球選手を担当したり、幅広くやられている方なんで、いろんなアドバイスをもらいましたよね。その先生から「お金使わなさすぎるから税金高いですよ」って、今でも言われます(笑)。

森高 優良納税者だ(笑)。 もしかしたら、現役を辞めてからのほうが稼いでいたり?

里崎 そんなことはないですけど、貯金は増えましたよね。僕、物欲がないんです。日常的に使うお金も少なくて、個人なら1か月で5万円くらいしか使ってないですよ。だから、支払う税金は高いんですけど、手元に残るお金も多いんです。税理士さんにも、現役中から「僕が関わったプロ野球選手で、里崎さんが一番金を使っていません」って。

森高 僕との大きな違いは、里崎さんは一生暮らしていける分のお金をすでに貯えているから、あとは好きなことができるという。僕は、最初にも話したように仕事が一番だから、「一生働き続けたい」っていうのが本望なんですよ。以前、有名だった漫画家さんが突然描かなくなってしまった理由を追った『消えた漫画家』という本を読んで、「そうはなりたくないな」って思ったんですよね。里崎さんもやっぱり、「消えちゃった」って周りから思われたくないですか?

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里崎 僕が「お金が大事」って言っているのは、すでに貯金があるからこそ、どの媒体でも忖度なく好き勝手に仕事ができるだけで。だから、僕も森高先生と一緒でずっと働いているんじゃないですかね。

■プロ野球選手は職業として勧められない?

森高 里崎さんは今回の著書で、「コーチになりたくない」と書かれていますよね。貯えや現在のご活躍からも十分に仕事をやっていけるとは思いますが、プロ野球OBの多くはコーチをやりたくて、実際にいろんな球団を渡り歩いている人がいるじゃないですか。どうすればそうなれるものなんでしょうか?

里崎 そういう人は人脈が広いし、独自のルートを持っていたりしますからね。あと、行動がすごく早いです。シーズン終盤に「今年でクビになるかもしれない」と察知するのか、試合前の練習中で相手チームの監督とかコーチと話をするシーンをよく見かけますね。それって、営業活動しているんです。この時期になるとコーチの人たち、眠れないみたいですよ。次の年も契約してくれるか心配で。

森高 それは、バッティングピッチャーやブルペンキャッチャーにも言えることですよね。

里崎 選手も監督、コーチ、裏方さんも全員、個人事業主ですからね。

森高 聞いた話だと、コーチで年俸1000万円ちょっと。裏方さんは600万円くらいと。

里崎 人によるんでしょうけどね。ただ、バッティングピッチャーの場合、高くなりすぎると契約を切られちゃうみたいです。肩とひじは消耗しますから投げられなくなったら終わりだし、キャリアが長くて高い給料をもらっている人より、若くて安い人をふたり雇ったほうが球団としてもいいじゃないですか。

森高 セカンドキャリアで言えば、実際のプロ野球界は3〜4年くらいで辞める人も多くて、知名度がない選手はアルバイトで生計を立てているのが現実としてあるようなんです。僕は『グラゼニ』でもそういう部分も描きたいというか。プロ野球選手になったからといって、果たして幸せなのかどうか? そこが非常に難しい問題だと思うんです。

里崎 だから僕、プロスポーツ選手をお勧めしないです。その年にドラフトで指名された選手のうち、実績を残せる選手なんて全体の10%くらいですからね。セカンドキャリアの成功も入れると1%とか2%の世界ですよ。

森高 これは個人の価値観の問題になるんだろうけど、学生時代は「エリートだ」とかもてはやされてプロに行っても、結局3〜4年くらいでクビを切られて。そこから細々と生活して、10年、20年後に「俺って貧乏だな」って思ったとしたら、スポーツでご飯を食べていくっていうことの意味を考えちゃうんですよね。もちろん「プロ選手になった」という誇りは一生持てるのですが。

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里崎 10年とかやって引退するより、3年くらいでクビになるほうが幸せだと思いますよ。若いから、高卒なら大学に行くのもひとつだし、人生のリスタートを切りやすい。

森高 確かに。プロ野球選手の平均寿命は8年と言われているけど、高卒選手なら26歳じゃないですか。お医者さんでその年齢ならスタート地点ですよ。そんなに若くして第1の人生が終わるっていうのも......。

里崎 だから僕、プロ野球の後輩に相談されたら「他の業種に進んだほうがいい」って言いますもん。非正規雇用の会社が増えたと言っても、厚生年金や社会保険とか、福利厚生がちゃんとしている会社はまだ多いし、そこで頑張れば昇進、昇給もあるだろうし、退職金だって貰えるかもしれない。野球界に残っても、国民年金と国民健康保険で退職金はゼロ。契約だって1年ごとの更新だから、いつクビになるかわからないし。

森高 その不安が、人生にとっては大きい。

里崎 野球界から抜け出すなら、早ければ早いほど幸せだと思うんですよね。

■仕事が一番のストレス発散

森高 現場に残れなくても野球に携わりたいから、解説者になりたいOBも多いですよね。

里崎 それも現場と一緒で、野球界は定年がないから需要より供給のほうが多い。だから、解説だけじゃご飯を食べていけないんですよ。

森高 地方でも大変みたいですよね。解説者だけだと生活が苦しいから、サイドビジネスで飲食店を始める人も少なくないようで。

里崎 それでも、飽和状態の東京より地方のほうが需要はありますけどね。1球団に対してテレビとラジオは複数あるし、新聞だってスポットなら仕事もあるだろうし。うまいこと営業すれば独占できるかもしれないんで。

森高 そこはね、里崎さんの感性によるところが大きいと思いますよ。解説者って、現役を引退して2、3年は一緒にプレーした選手や監督、コーチもチームに残っていたりするから、面白いネタとかを喋れたりするけど、そこを過ぎちゃうと鮮度が落ちてくるというか。でも、里崎さんは引退して7年も経つのに、いつも新鮮な話題を提供してくれる。それは才能だと思うし、里崎さんの人生の根本にもなっているんだろうなって。

里崎 かっこつけようと思ってないですからね(笑)。他の人たちも裏ではすごく面白い話をしますよ。でも、公ではスマートになっちゃう。相手に忖度しちゃうんです。

森高 そういう姿勢なんですよ。「メディアに出る」っていうプライドをすごく感じるんですよね、里崎さんからは。そういう生き方がかっこいいし、共感できるというか。

里崎 みなさんの前に出ることに幸せを感じるんですよ。アドレナリンが出るっていうか、いろんなところで発信することによって、生きている証を実感できるところもあるんで。だから、忙しくても仕事するんですよね。もう、病気に近いくらいに(笑)。

森高 好き勝手なことが言えなくなったらマズい、と(笑)。それこそ、里崎さんと同じニッポン放送で解説をされている江本(孟紀)さんも、そういうところがありますよね。阪神時代に「ベンチがアホやから」って言い捨てて辞めたあのインパクト、強烈に覚えているんです。引退してからも、江本さんはその調子のまま喋り倒している。里崎さんにもそのくらいの勢いでずっと続けてほしい。

里崎 僕、それこそ江本さんの後釜狙ってますからね。誰にでも気兼ねなく言いますから。仕事がストレス発散なんで(笑)

★後編記事に続く

■里崎智也(さとざきともや)
野球解説者、千葉ロッテマリーンズスペシャルアドバイザー。1976年、徳島県生まれ。鳴門工高(現・鳴門渦潮高)、 帝京大を経て、1998年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズを逆指名。2014年に現役を引退。出場千試合以上の捕手としてはNPB歴代最少となる通算捕逸19個という記録をもつ。2019年にYouTubeチャンネル「Satozaki Channel」を開設。著書に『非常識のすすめ』(KADOKAWA)など

■森高夕次(もりたかゆうじ)
1963年長野県生まれ。コージィ城倉名義で作品を執筆し、森高夕次名義でマンガ原作者としても活躍する。1989年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて『男と女のおかしなストーリー』でデビュー。デビュー時から野球を題材にすることが多く、同年ミスターマガジン(講談社)にて『かんとく』、1995年に週刊少年サンデー(小学館)にて『砂漠の野球部』、2003年には週刊少年マガジン(講談社)にて『おれはキャプテン』など数々のヒット作を生み出している。現在の連載作に『プレイボール2』など。2021年12月より『グラゼニ 〜大リーグ編〜』をモーニング(講談社)にて連載開始予定

取材・構成/田口元義 撮影/ 内藤サトル

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