元プロ野球選手、里崎智也と漫画家・森高夕次が語る「エリートじゃない戦い方とこれからの夢の話」

0G8E0263.jpg

11月17日に新書『シンプル思考』を上梓した里崎智也さんは、プロ野球を引退後、解説者だけに留まらず、チャンネル登録者数46.6万人の人気ユーチューバーとしても活躍。森高夕次さん原作の野球漫画『グラゼニ』は、年俸マニアのピッチャー凡田夏之介がプロ野球界で生き残り年俸アップを目指すという、「お金」をテーマとした異色のマンガ。連載開始から12年も続く人気作です。

現実の世界で実績を残し、テレビや新聞ラジオに引っ張りだこの里崎氏。フィクションの世界で連載開始時は年俸1800万の中継ぎ投手だったものの、現在年俸1.5億の先発ピッチャーになり、理想的なキャリアップを果たしている凡田。たとえ王道やエリート街道でなくとも、我が道を突き進むふたりの「主人公」にとって、「人生を豊かに生きるため」の思考法、それを最大限に活かすための武器とはなにか。そして、「仕事人」として見据えている今後とは? (前篇「好きなことを仕事にするのは幸せなのか?」を読む)

■「エリートじゃない選手」の戦い方

森高 今年のプロ野球を見ていて感じたことがあるんです。セパ両リーグの優勝チームには若手の大黒柱がいました。ヤクルトは、最後まで巨人の岡本和真選手とホームラン王、打点王を争った村上宗隆選手。オリックスは、防御率、勝利数、勝率、奪三振数、完封数の「5冠」に輝いた山本由伸選手です。

里崎 ふたりとも、間違いなくシーズンMVPに選ばれるでしょうね。

森高 彼らはどちらかと言うと、「スーパーエリート」ではなかったと思うんですね。山本選手は高卒ドラフト4位だし、村上選手はドラフト1位でしたけど、この世代には早稲田実業時代に通算111ホームランの高校生記録を作った日本ハムの清宮幸太郎選手や、履正社高校3年のセンバツで準優勝の実績があるロッテの安田尚憲選手がいて、プロ入り当初は彼らのほうが注目されていたし期待もされていた。それが今、2歩も3歩もリードしてしまった。プロの目線でそれを分析すると?

里崎 そもそもドラフトっていうのは、アマチュアの時代の評価であって、プロではまた別物ですから。1位が必ず育つわけじゃない。

村上に関しては、ポジションも大きかったと思いますよ。もともとはキャッチャーで入ったけど、プロではファーストとサードを練習して最低限は守れるようになった。でも清宮は、今でもファーストしか守れない。このポジションは基本、外国人が入団すれば優先されますからね。起用する監督としては、選択肢が少ないのは大きなデメリットです。

森高 失礼かもしれないけど、里崎さんは決してエリート街道を突き進んでプロに入った選手じゃないですよね。

里崎 失礼じゃないですよ。僕なんて凡人ですからね。だから頭を使うんです。「何かできることはないか?」「相手の弱点はないか?」とか常に考えて、勉強して。「なんとかしてやろう」って行動しているだけです。

森高 僕はそこにシンパシーを感じるんです。

高校時代に甲子園で活躍した、東京六大学リーグで実績を残してドラフト1位でプロに入った人はまさにエリートでりっぱですが、それより里崎さんのように「アマチュアとプロの評価は違う」と、試合に出場できる環境を自分で作ることに魅力を感じた。現に著書で、「試合に出られそうだからロッテを逆指名した」と書いていたし(笑)。

里崎 あとは、そのなかでいかに自分を表現できるかですよね。僕で言えば、「誰にも負けたくない」って想いが強かった。一軍の試合に出るために、まず守備を最低限のレベルまで押し上げないとダメだったんで。そこが基準値に達したら、レギュラーになるためにひたすらバッティングを磨きましたからね。そこのふり幅。「全部を同時にレベルアップさせたい」なんて無理なんだから、その時の自分の実力をしっかり見据えて、どこに重きを置くかも大事だと思いますけどね。

■里崎氏の言葉が次の『グラゼニ』のヒントに

森高 自分の武器を見出すという意味では、『グラゼニ』の主人公・凡田夏之介がナックルボールを習得したんです。実は、その背景には里崎さんの言葉がヒントにあって。

ラジオ番組で「日本人でフルタイムのナックルボーラーが誕生しないのは、日本人バッターはアメリカ人よりボールを見極める技術が高いから」と言っていたんです。そこで「日本人初のフルタイムナックルボーラーが誕生したらどうなるかな?」と閃きました。

0G8E0112.jpg

里崎 あとは、日本人でナックルボールを教えられる人がいないのもありますよね。

森高 メジャーリーグでも活躍された大家友和さんは、日本人でも数少ないナックルボーラーで取材したことがあって、里崎さんと同じことを言っていましたね。「アメリカ人は器用だし、投げ方も教えられる人がいるけど、日本人にはそういう人がいない」と。大家さんの説明によると、ボールを投げる瞬間に指先で細かい調節をすることによって、無回転のブレ球を投げられるんだとか。

里崎 メジャーリーグで有名なナックルボーラーだった(ティム・)ウェイクフィールドの話だと、ボールの回転を指先でコントロールしながら推進力を生かして変化させているようで。まあ、理屈はわかりますけど再現するのは難しいでしょうね。だから、投げられる人が少ないんですよ。

森高 里崎さんは現役時代に真の無回転ボールを見たことがありますか?

里崎 僕が入団した年(1999年)のロッテに、河本育之さんって左ピッチャーがいたんですけど、フォークボールを無回転で投げていたんですね。河本さんが二軍で調整中に受けたことがあったんですけど、捕れなかったです。本当に回転しないブレ球だったんで。

森高 大家さんやいろんな人に話を聞けば聞くほど、「ナックルボールは高等技術すぎて、日本でプレーしていたら到達できないんだろうな」という結論になりました。

里崎 あと、キャッチャー目線で付け加えれば、日本だとナックルボールを投げると、盗塁されまくると思うんですよね。

森高 それは、球速が遅いから? メジャーリーグだと肩が強いキャッチャーが多いから、そこで補えるわけですか。

里崎 ボーク(反則投球)の基準がメジャーは緩いんです。日本の場合はしっかり静止してから投げないといけないんで、盗塁されやすいと思うんです。でも、アメリカは日本ほど止まらなくていいんで、キャッチャーはピッチャーからのボールを捕ったら素早く投げられる分、刺せる確率も高くなるんです。

森高 現実では難しいからこそ、「漫画ならフルタイムのナックルボーラーは肯定されるんじゃないか?」ということで、主人公に投げさせたんです。今年の12月から『大リーグ編』の連載がスタートして、凡田夏之介がメジャーリーグに挑戦するんですけど、夏之介自体は連載開始時の11年前は中継ぎピッチャーでした。その時と比べても、中継ぎの重要性は高まってきています。先発ピッチャーと同じくらいの給料を上げてもいいんじゃないかって思ってるくらいです。

里崎 そう思いますね。先発が完投しない時代になってきて、中継ぎの役割が増しましたからね。「登板過多」って言われるくらいに。

森高 信頼される中継ぎピッチャーは、勝ちパターンはもちろん、同点の場面でも投げさせられますからね(苦笑)。

里崎 体力的にかなりきついと思いますよ。

森高 ともあれ、漫画の中ですけど、日本人初のフルタイムナックルボーラーが海を渡りました。すべては里崎さんが最初に与えてくれたヒントのおかげです(笑)。

里崎 そのヒントっていうのは多分、僕の回答の早さです。ラジオって「3秒沈黙が続くと放送事故」って言われるんで。森高先生のお役に立てたのならよかったですけど(笑)。

■「野球学校」を作りたい

森高 そういう姿勢でいられるから、今やユーチューバーとしても活躍できてるんだなって思うんですよ。野球界にこだわっていないけど、「元プロ野球選手」っていうキャリアを最大限に活かして生きているという。いろんな食い扶持を見いだせていますもんね。

0G8E0185.jpg

里崎 最近、新しい夢ができたんですよ。

森高 どんな夢ですか?

里崎 都内近郊の廃校を再利用して、「野球学校」を作りたいんです。「野球道認定協会」って仮称も決めております。小学校4、5年までは地域の野球クラブに所属しないで、ここで学ばせる。ピッチャー、キャッチャー、内野、外野、バッティング、走塁、コンディショニング、栄養学とかカリキュラムを細分化させて、伸ばしたい要素を1コマから受けられる仕組みを構築していきたいんです。

小学校低学年って、どこまで上達したかわかりづらいじゃないですか。だから、その基準を、柔道や剣道みたいに「級」や「段」で可視化するんです。その成果は、勝ち負けを度外視した試合で確認したりする。そういった土台が完成すれば、元プロ野球選手じゃなくても、野球経験者であれば誰でも教えられることができますからね。

森高 それをYouTubeで配信して。

里崎 いや、これは学校として特化させます。今は忙しくてできないですけど、実現させたい大きな夢のひとつですね。

森高 繰り返しになるけど、里崎さんは自分のアイデアを形にできるから、業界から絶対に消えない。人の記憶にも残り続けると思う。

僕もそこが唯一の目標なんですよ。やっぱり消えたくない(笑)。プロ野球選手と違って漫画家って、名乗っちゃえば漫画家なんです。でも、周りからそう認められる存在となると話は別で。本当に長く現役で描かれていた漫画家って、先日、85歳でお亡くなりになった『ゴルゴ13』の作者、さいとうたかを先生と『ひねもすのたり』を連載中のちばてつや先生くらいなんですよね。そこまで描き続けられるのは稀だとしても、1年でも長く現役にしがみつきたいとは思いますね。

里崎 プロ野球選手より大変だと思いますよ。だって、引退してもみんながみんな野球にしがみつくわけじゃないし、漫画家さんみたいにアイデア勝負ってわけでもないし。僕なんかはYouTubeでいろんな企画やらせてもらっていますけど、あれはあくまで自分から発信できるから、好き勝手やれるだけですからね。楽なんですよ、本当にもう。

森高 そんなことないですよ。プロ野球OBなら指導者にしがみつきたいものだし、ゆくゆくは監督になりたいと思うのが王道の目標なんだろうけど、里崎さんにはそういう考えがない。だって、「ロッテの社長ならやってもいいかな」と言えるくらいだから(笑)。

里崎 そうそう(笑)。それはですね、今でもちょっとやってみたい仕事ですね。

■里崎智也(さとざきともや)
野球解説者、千葉ロッテマリーンズスペシャルアドバイザー。1976年、徳島県生まれ。鳴門工高(現・鳴門渦潮高)、 帝京大を経て、1998年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズを逆指名。2014年に現役を引退。出場千試合以上の捕手としてはNPB歴代最少となる通算捕逸19個という記録をもつ。2019年にYouTubeチャンネル「Satozaki Channel」を開設。著書に『非常識のすすめ』(KADOKAWA)など

■森高夕次(もりたかゆうじ)
1963年長野県生まれ。コージィ城倉名義で作品を執筆し、森高夕次名義でマンガ原作者としても活躍する。1989年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて『男と女のおかしなストーリー』でデビュー。デビュー時から野球を題材にすることが多く、同年ミスターマガジン(講談社)にて『かんとく』、1995年に週刊少年サンデー(小学館)にて『砂漠の野球部』、2003年には週刊少年マガジン(講談社)にて『おれはキャプテン』など数々のヒット作を生み出している。現在の連載作に『プレイボール2』など。2021年12月より『グラゼニ 〜大リーグ編〜』をモーニング(講談社)にて連載開始予定

取材・構成/田口元義 撮影/ 内藤サトル

関連記事(外部サイト)