なぜ大迫勇也は高く評価されるのか? 福西崇史が解説する日本代表で1トップを務めることの難しさ

日本代表の1トップをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第30回目のテーマは、日本代表の1トップについて。いまだに日本代表の課題となっている1トップだが、いったい誰が務めるのが適任なのか? 福西崇史が考える。

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日本代表にとって6月の国際親善試合ではインサイドハーフやDFラインに収穫がありましたが、その一方で、1トップには打開策が見つからないままでした。

個人的には上田綺世に期待していたのですが、森保一監督が上田に与えた出場機会はガーナ戦での1試合のみ。もっと試してもらいたい気もしましたが、森保監督にしたらほかの選手でも試したいことがあったり、FW陣のなかでの優先順位があったりしたのでしょうね。

上田にはスタメン出場したガーナ戦で、序列をひっくり返すくらいの活躍を見せてもらいたかったですね。いいプレーは随所にありましたが、FWとしてのインパクトに欠けたのは否めませんでした。6月に新たに移籍したサークル・ブルッヘで個を高めて、次回のチャンスでしっかりアピールしてもらいたいなと思います。

その1トップにはパラグアイ戦とチュニジア戦では浅野拓磨、ブラジル戦では古橋亨梧がスタメン出場しました。浅野はパラグアイ戦で先制ゴールを決めましたが、相手のレベルが上がったときも同じようにプレーができるかと言えば、今回だけでは、わかりませんでした。

古橋はブラジル代表がボールを保持する時間帯が多くなったことで、彼の持ち味を攻撃のところで発揮する機会がありませんでした。守備でも貢献できるのは予想通りでしたが、古橋のスピードとDFラインの間を突く動きを、日本代表がどうやって攻撃に取り込むかを見たかったですね。

全体的な印象としては、6月の代表戦は万全のコンディションではないことからメンバー外だった大迫勇也の状態が戻るのを期待するのもありだなと感じましたね。

では、なぜ数いるFWの中でも大迫は高く評価されてるのか? 今回は日本代表の1トップについてフカボリしたいと思います。

日本代表の1トップというのは、難しいポジションです。なぜかと言えば、格下との対戦が多いアジア予選ではゴールを決める仕事に専念できますが、対戦相手のレベルの上がるワールドカップでは、ゴール以外の仕事にも存在感を発揮しなければならないからです。だから、単純に予選でのゴール数で1トップの選手を決められないわけです。

その点で大迫は、前回W杯ロシア大会でも1トップをつとめましたが、彼自身がゴールを決める以外のところでも、常に存在感を示せるのが強みです。

今回のW杯アジア予選でもゴール数だけをみれば物足りなく感じるかもしれません。でも、要所要所ではチームのシュート機会をつくるための動きだったり、ポストプレーだったりをしていました。

コンディション的にベストな状態になくても、チームを生かすためのプレーができる。これこそが、大迫が長年にわたって日本代表の1トップでファーストチョイスされている理由でもありますね。

もちろん、大迫には得点力がないわけではありません。『ハンパねえ』ゴールだってあります。ただ、チームのために献身的に働ける。それが重視されるのは、日本代表が世界のサッカーのなかでは、強豪国ではないからですよね。

1試合を通じて主導権を握れるアジアとの戦いとは異なり、ワールドカップでは相手にボールを保持されて押し込まれる展開になります。そうしたときに、「ゴール前で点を獲る以外の仕事は出来ません」というタイプを1トップに据えてしまうと、試合のほとんどの時間帯を10人で戦うようなことになってしまうわけです。

そうならないためには、1トップには得点力以外の仕事も日本代表の場合には必要になります。前線からの守備に加えて、相手に押し込まれたなかでDFが跳ね返したボールをセンターサークル付近でキープしたり、ファウルをもらってリスタートできる状況をつくったりなども求められますし、相手では囮の動きをしてスペースをつくって味方を生かす献身性も要求されます。

こうした点において、大迫は実によく仕事をしますし、そこでの実績や信頼感もあります。彼が万全の状態に戻れば、この難しい1トップの仕事を任せたいと考えるのは当然のことだと思います。

ただし、大迫の体調面が本当にベストな状態に戻るのか。こればかりは時間との勝負でもあります。所属するヴィッセル神戸が、Jリーグで難しい状況にあるため、大迫がこれから先も無理して試合に出場し、再び調子を崩してしまう可能性もあります。そうした難しさもありますよね。

大迫がもし間に合わないとなったとき、僕は南野拓実を1トップに置いたりするゼロ・トップも面白いのではないかと思います。

ワールドカップではドイツ代表、コスタリカ代表、スペイン代表とグループリーグを戦うわけですが、そこから得点を決めるのは容易ではありません。

よく、ストライカーに対して『決定力』という言葉が使われますが、僕はそもそも決定力のある1トップの選手というのは、世界的に見ても、ハーランドやイブラヒモビッチなど数人しかいないと思っています。それ以外のFWは様々な能力にこそ差はありますが、決定力という観点ではほぼ同じと言えるでしょう。

では、そういった特別な選手たち以外のゴール数がなぜ違ってくるのかと言えば、シュートを打つ本数も影響していると思います。チームとしてチャンスをつくりだす回数が増えていけば、最終的にFWがシュートを数多く打てる。そうすれば、おのずとゴール数は増えるわけです。

日本代表の場合も決定力のある世界的なストライカーは、残念ながらいませんよね。理想は一撃必殺ですが、そこを望んでも無理があるのがサッカーというもの。じゃあ、イブラヒモビッチもハーランドもいない日本代表はどうすればいいか。

そう考えたときに、相手に押し込まれる時間帯が長くなることを想定すれば、まずは数少ないボール保持の機会で確実にシュートチャンスに持ち込めるようにしたいわけです。そうしたときに、1トップの選手はフィニッシャーであると同時に、チャンスメイカーにもならなくてはならない。

その最適な人材が、南野というわけです。南野は現状では左サイドアタッカーですが、彼は単独でサイドを打開してチャンスメイクするタイプではなく、ゴール前で味方とかかわり合いながらDFの間でボールを受けてシュートに持ち込むことに秀でています。自分でもシュートを打てるし、最後は味方にパスも出してゴールをお膳立てもできる。

しかも、南野はゲーゲンプレスのサッカーを長くやっているので、前線からの守備での動き出しは抜群にいい。彼の動き出しのタイミングに、うしろの選手たちが合わせられるようになれば、守備の面でも期待値は高まります。

そうなれば左サイドのポジションに古橋亨梧を使う手もありますし、現状は南野との交代出場の多い三笘薫をスタメンに起用する策も生まれてきます。南野と三笘が共存できたら、どんな攻撃が繰り広げられるんでしょうね。ここから先、日本代表としての活動機会は限られていますが、一度は試してもらいたいなと思います。

E−1選手権で強烈なアピールをしてどうしても日本代表の1トップ争に名乗りを上げるFWが現れてもらいたいですが、現実的に考えればそれは難しい面もあります。先日の代表戦に招集された1トップ候補たちが、今後もハマらないようなときは、そこに固執するよりは、柔軟に考えた選手構成で臨んでもらいたいですよね。まだまだ日本代表は強くなる余白を多く残していると感じていますので、ここから本大会までにどう変化していくのか楽しみでなりません。

構成/津金壱郎 撮影/鈴木大喜

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