サッカー日本代表引退後にフランクフルトで躍動。長谷部 誠がドイツで得た"天職"

サッカー日本代表引退後にフランクフルトで躍動。長谷部 誠がドイツで得た"天職"

3月17日までのリーグ後半戦を9戦無敗、5位のフランクフルトで不動のCBとして活躍する35歳の長谷部

今季、ドイツのブンデスリーガで好調なアイントラハト・フランクフルトに所属する、元日本代表・長谷部 誠に称賛が集まっている。

長らく守備的MFのボランチとしてプレーしていた長谷部だが、ニコ・コヴァチ前監督(現バイエルン・ミュンヘン監督)の下、CB(センターバック)のポジションを確立。チームの成功とともに評価が急上昇し、ドイツ伝統のサッカー専門誌『キッカー』では、ブンデスリーガ全フィールドプレーヤーの評価で一時は1位になるなど存在感を発揮している。

元ドイツ代表のCBで、欧州で多くのタイトルを獲得した"レジェンド"マティアス・ザマーは、3月11日のフォルトゥナ・デュッセルドルフ戦後に長谷部のプレーを激賞。鼻を骨折したばかりで装着していたフェイスガードを、試合の序盤に外す姿を見て「いい選手というのは、少しクレイジーなんだ。そうでなければ、いい選手にはなれない」と興奮気味に話した。

日本にも長谷部の活躍は伝わってきているが、現地ドイツではどのように評価されているのか。『キッカー』で、フランクフルトの番記者を務めるパトリック・クラインマン氏に話を聞いた。

長谷部のチーム内での位置づけは、ピッチの内外で安定感をもたらす役割だという。

「ハセベがドイツ国内で評価が高い理由は、プレーと人間性の両方によるものだ。クラブのすべての人間が彼に好意を持っている。彼は落ち着いていて、信頼でき、動揺しない人間だと見なされており、自分の仕事を高いレベルでこなす"プロの鑑(かがみ)"だからだ」

とりわけ、今季からチームの指揮を執るアディ・ヒュッター監督は、長谷部に全幅の信頼を寄せている。クラインマン氏は、「ヒュッター監督は昨年末に『ハセベはわれわれにとって、絶対的な中心軸だ』と話していた。監督は、できる限り彼を試合で起用したいと思っている」と、現在のチームに不可欠な存在であることを説明した。

具体的なプレー面に目を向けると、例えば後方からのビルドアップは、長谷部の存在の有無がチームの出来を大きく左右する。適切な判断の下、長短を織り交ぜた正確なパスは、現在のフランクフルトの好調を支える要因になっている。

「リーグ前半戦の終盤(昨年12月の第15節から第17節まで)に試合から離れていた時期は、後方からゲームを組み立てるのにひどく苦労していた。選手や監督はもちろん、記者やエキスパート、ファンたちも、ハセベ不在の影響をすぐに理解できたはずだ」(クラインマン氏)

さらに守備面でも、長谷部のピッチ全体を見回せる視野の広さやゲーム展開を読む能力は際立っている。クラインマン氏も「ポジショニングが圧倒的に優れている。相手のパスやクロスに対して適切な位置に立ち、頻繁にパスカットを行なうシーンが見られる」と評価する。3バックの中心でチームを統率し、ジェスチャーを交えながら後方からチームを熱く鼓舞する姿は"闘将"と呼ぶにふさわしい。

また、3月11日の試合でフェイスガードをつけてピッチに立った姿は、元日本代表の宮本恒靖(現ガンバ大阪監督)を彷彿させた。オーストリア・ブンデスリーガに属するレッドブル・ザルツブルクで、宮本とチームメイトだったコヴァチ前監督は、大衆紙『ビルト』に対し、長谷部のコンバートについて当時こう話している。

「『おまえはミヤモトのようだ。彼は日本でシンボル的な存在だっただろう。今度は、おまえがそのシンボルになるんだ』とマコトに言ったんだ」

16年10月28日のボルシアMG戦に初めてCBとして起用された長谷部は、完璧に自身の役割を果たしてみせた。アイデアが奏功したコヴァチ前監督は、その試合後に「マコトが最後尾にいることで、チームはもっとバリエーション豊かになる。彼は、本当によくやってくれた」と自身の目に狂いがなかったことを喜んだ。

30歳を過ぎ、キャリアの終盤に差しかかると思われたタイミングで、"天職"とも呼べるポジションを見つけた長谷部。クラインマン氏は、ベテラン選手が試合に出続ける上で、CBでプレーするメリットを次のように話す。

「ヒュッター監督も『(長谷部が)ボランチとして3試合連続でプレーすることは、もうできないだろう』と話しているが、CBはMFに比べると少ない運動量で済み、ボールをめぐって1対1のぶつかり合いに挑むことも頻繁にはない。同時に、彼の特長であるポジショニングとビルドアップで、より大きな影響を与えることができる」

さらに、昨年のロシアW杯を最後に日本代表を引退し、休養に専念できる意義の大きさも強調した。しっかりと休養を取れることが、チームがヨーロッパリーグに参加する過密日程でも活躍を続けられる要因になっているという。

「代表ウイークのたびに往復で約2万kmを移動してプレーすることがなくなり、フランクフルトでしっかりと休めることは、彼の体にとってもいい影響を与えている。今シーズン序盤にチームに合流した当初は、W杯の疲労がたまっていたことが誰の目にも明らかだった」

代表選手としての生活からリズムを一新し、新境地を開拓した長谷部の成長は、とどまるところを知らない。

ヒュッター監督は、「マコトは、ワインのようだ。年を重ねるほど、いいものになっていく」と高級ワインにたとえている。適切な手入れによって、成熟させればさせるほど価値が上がる高級ワインのように、フランクフルトでプレーする長谷部の価値は、これからも高まり続けていく。

取材・文/鈴木達朗 写真/アフロ PRESSE SPORTS/アフロ 千葉格/アフロ

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