フランス帰りの日本代表新主将・土井杏利が語る逆襲への決意「自分とハンドボールの価値を上げる。五輪には楽しみしかない(笑)」

フランス帰りの日本代表新主将・土井杏利が語る逆襲への決意「自分とハンドボールの価値を上げる。五輪には楽しみしかない(笑)」

世界屈指のハンドボール強豪国フランスのプロリーグで長くプレーした土井杏利。昨季は2部シャルトルでチームの1部昇格に貢献した

2年前までハンドボールの強豪国フランス1部のシャンベリーで4年間プレーし、2017年にはオールスターゲームにも出場した土井杏利(どい・あんり/29歳)。今季はフランス2部シャルトルの主力としてリーグ優勝に貢献し、プレーオフも制して来季の1部昇格を勝ち取った。

だが、ハンドボール男子日本代表の新主将となった彼は「ハンドボール人生をかけて東京五輪に臨む」として今夏の帰国を決断。その意気込みを聞くべく直撃した。

■目の前にいるヤツをどうやって倒すか

──まずはフランス2部での優勝おめでとうございます。プレーオフは準決勝も決勝も1点差の劇的勝利だったとか。

土井 ありがとうございます。ただ、中身はそんなにキレイじゃないんです。チームが優勝争いをするなか、長く主将を務めていた選手の契約が急に今季限りで切られることが発表されるなど内部はゴタゴタしていて。それでも、コートに立ったら仕事をするのがプロ。

僕もフランスでの最後の試合になるのはわかっていましたし、メンタルを切り替えて試合に集中しました。内容はホメられたものではなかったですけど、それでも勝てるくらい今季はチーム力があったのだと思います。

──来季は日本リーグの大崎電気でプレーすると発表されました。なぜ日本に復帰を?

土井 日本リーグのレベルは、フランスの2部と3部の間くらい。だから、レベルは下がります。ただ、日本代表のシグルドソン監督(*アイスランド出身で2017年2月に監督就任。過去に強豪ドイツを率いるなどした世界屈指の名将)とも話して、東京五輪に向けて帰国するのもいいかなと思ったんです。

フランスにいると、日本代表の合宿には直前まで参加できない。当然メンバー選考はあるし、まだ僕が五輪に出られるかどうかは決まっていませんけど、僕はハンドボールを愛しているし、出る以上はいい成績を残したい。マイナー競技のハンドボールにとって、東京五輪は世間に認知してもらうまたとないチャンスですからね。

それに、僕から見て日本の選手はプロ意識というか、試合に臨む姿勢やメンタルの弱さが問題かなと思っていて。僕が日本に戻って、長い合宿などを通じて少しでもメンタルの改善に役に立てればと思っているんです。

──土井選手は、以前から日本代表の「メンタルリーダー」と言われるほどメンタルが強いと言われていますね。

土井 そうじゃないと、海外ではやっていけないですから。ハンドボールはコンタクトスポーツですし、いい表現ではないですけど、フランスでは試合前、選手は戦場に行く兵士のように大声を出すなどして殺気立っています。試合って、やっぱり目の前にいるヤツをどうやって倒すかっていう感じで臨まないと勝てない。

日本リーグはプロではなく実業団で、その点で甘さが抜け切れていないところがあると思います。僕が初めて代表でプレーした5年くらい前の話ですけど、試合前のロッカールームでヘラヘラしている選手がいて、ホントに衝撃でした。僕は日本の実業団でプレーしたことがないので、「おまえら、マジか?」と。

──今年1月の世界選手権(ドイツ・デンマーク共催)は予選リーグでクロアチア、スペイン、アイスランド、マケドニア、バーレーンに5連敗。順位決定戦でも連敗して日本は最下位の24位に終わりました。五輪を1年後に控えたチームの状況は?

土井 確かに、世界選手権は厳しい結果でした。ただ、スゴくいい試合もあったし、昨年のアジア大会(4位)に比べたら成長している感覚はあるんです。シグルドソン監督はとにかくポジティブな人で、今は若手にも積極的にチャンスを与えています。その若手が伸びてくればチームの大きな力になってくれる可能性もあると思っています。

■人に知られないとなんの価値もない

──男子ハンドボールは開催国枠で32年ぶりの五輪出場になります。東京五輪で楽しみにしていることは。

土井 楽しみしかないです(笑)。12年のロンドン五輪ではハンドボールが盛んじゃないイギリス代表が開催国枠で出て(全敗した上に多くの試合で大量失点するなど)ボロボロだったので、五輪の貴重な1枠を開催国が得るのは「どうなんだ?」って意見もありましたから。

本当は実力でアジア予選を勝ち抜いて出られればよかったんですけど。出場が決まったときはホッとしましたし、恥ずかしい試合だけはしたくない。

──日本ではマイナーなハンドボール。これまでツラい思いをすることも?

土井 競技をやる上で大変なことはないですけど、何かやってもまったく話題にならないのはキツいですよね(苦笑)。僕はシャンベリー時代の16−17シーズンに世界トップの選手たちに交じってフランスリーグのオールスターゲームに出たんですけど、日本では1ミリも話題にならなかった。プロ野球の選手がMLBのオールスターゲームに出たら大騒ぎなのに......。

──見向きもされないツラさがある?

土井 人に知られないとなんの価値もないんだなっていうのは感じます。だから、それも帰国した理由のひとつ。もっと自分のことを知ってもらって価値を上げたいというか。だって日本では僕よりも活躍していない後輩が、東京五輪が近づいていることでメディアに出て紹介されたりしていますから(苦笑)。

本当はそんな悔しさは表に出したくないし、きっとハンドボールをやっている人なら、フランスで6年間プロとして、やってきたことの意味をわかってくれると思いますけど......。シャンベリー時代は毎年サッカーのヨーロッパリーグに当たるEHFカップにも出ていましたし、一度ベスト4まで行ったんですけどね。

──世界的に見てフランスのレベルはどのくらい?

土井 これまではドイツリーグが一番で、その次がフランスとされていましたけど、今はおそらくフランスが上。17−18シーズンなんてチャンピオンズリーグの上位3チームがフランス勢でしたから。

──盛り上がりや収入面は?

土井 シャンベリーは約5000人収容の専用アリーナを持っていました。2部のシャルトルでも毎試合1000人近くのファンが集まります。街に出ればサインを求められますし、例えば郵便局とかレストランに行っても、みんな僕のことを知っていて優遇してくれますから。

ただ、サラリーはクラブによりますけど、さすがにサッカーのトップ選手などに比べると......(苦笑)。もちろん、トップ中のトップ選手になれば月に400万円、500万円ともらっている選手もいますけどね。

──では、ハンドボールに詳しくない読者に向けて、ここを見たら楽しめるというポイントなどはありますか。

土井 コンタクトスポーツなので、やっぱりフィジカルのぶつかり合いです。あとはいろいろな競技がありますけど、ハンドボールほどシュートのバリエーションが多いスポーツはない。

ループシュートだったりスピンシュートだったり......。手首の使い方でいろいろな回転がボールにかかっていて、絶対に同じ得点っていうのがない。一番面白いところはそこだと思います。

──土井選手のここを見てほしいというプレーは?

土井 1対1ですね。僕は右利きなので、左サイドから切り込むウイングですけど、サイドには職人肌の選手が多い。ジャンプして相手の上から決めたり、ここを通すかという角度のないところからシュートを狙ったり。決して目立つポジションではないんですけど、最後のシュートのところは見てほしいです。

──東京五輪での目標は?

土井 出るからには優勝を目指したい。ただ、現実的な目標としてはまず1勝。リーグ戦を突破して、なんとか決勝トーナメントに上がれればと思っています。

●土井杏利(どい・あんり)
1989年フランス生まれ、千葉県育ち。日本体育大学4年時に実業団からオファーを受けるも、ヒザの故障により現役を引退。その後、語学留学のために渡ったフランスでヒザの痛みが消えると、現地のプロチームと契約。以降、フランスで6年間プレーし、2017年にはオールスターゲームに出場。東京五輪を見据え、来季より日本の大崎電気に所属。身長181cm、国際試合出場数25

取材・文・撮影/栗原正夫

関連記事(外部サイト)