ド派手な欧州初のMLBに光と影。ヤンキース・田中将大の乱調にも思わぬ原因が?

ド派手な欧州初のMLBに光と影。ヤンキース・田中将大の乱調にも思わぬ原因が?

ヤンキース対レッドソックスという好カードに、野球仕様に改修されたロンドン・スタジアムはほぼ満員となった

延々と繰り広げられる打撃戦は、イギリスのスポーツファンの目にどう映っただろう。「ベースボールは迫力があるスポーツだ」と感じただろうか。

その答えはどうあれ、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大にとって、現地時間6月29日にロンドン・スタジアムで行なわれた対ボストン・レッドソックス戦は、"ロンドンの悪夢"とでも呼びたくなるようなゲームになった。

欧州にMLBが初めて上陸した「ロンドンシリーズ」。その初戦に先発した田中は、1回表に6点の援護をもらったものの、ふたつの四球を挟んで4安打6失点とまさかの大乱調。同点になった瞬間、5万9659人のファンは騒然となった。

「いろんな方をがっかりさせる投球になったと思いますけど、一番がっかりしているのは自分自身です」

日米通じての自己最短となる、わずか3分の2イニングでKOされ、田中は即席のクラブハウスで肩を落とした。両チームの先発投手が共に初回に6失点以上を喫したのは、MLB史上でも1912年以降でわずか3度しかない。大舞台に強く、今季は安定していた背番号19がこれほど崩れるとは......。

田中の結果は残念だったが、2012年のロンドン五輪のメイン会場となったスタジアムは素晴らしい雰囲気に包まれていた。

15年にMLBコミッショナーに就任したロブ・マンフレッドが陣頭指揮を執った大イベント。遠征の最大の目的は、欧州にベースボールの魅力をアピールし、選手&ファン層を拡大することだ。そんな大事なシリーズに、ヤンキース対レッドソックスという最高のカードが用意された(ドル箱のホーム戦を失ったレッドソックスには、MLBから300万〜350万ドルが補償されたという)。

「両軍には多くのスター選手が属しているから、その才能の一端を見てほしい。そして、ここで植えられた種がいつか花を咲かせてほしい」

ヤンキースのアーロン・ブーン監督がそう述べたとおり、アーロン・ジャッジ、アロルディス・チャップマン、J.D.マルティネスといったトップスターが顔を並べた両軍のロースターは、英国のファンにもなじみやすいものだっただろう。

試合前には、英国王室のヘンリー王子夫妻がクラブハウスで両チームに挨拶(あいさつ)し、始球式にも登場。また、ヤンキースの『Y.M.C.A.』(グランド整備時のダンス)、レッドソックスの『スウィート・キャロライン』(8回裏にファンが一体となって合唱)といったMLBの名物イベントも随所に盛り込まれた。

「特別で、ユニークで、とてもクールな経験だった。試合が始まってすぐにファンは熱中して、クレージーな雰囲気だった。まるでサッカーの試合のようだった」

レッドソックスのアレックス・コーラ監督は笑顔でそう述べたが、事情をよく知らないロンドンのファンにも、野球観戦の楽しさは感じられたに違いない。

さらに試合2日前にも、アレックス・ロドリゲス、松井秀喜といったヤンキースOBたちがロンドン市内で野球教室を開催。シーズン期間中は球場の周囲でも盛大なファンフェスタが催された。ロンドンには華やかな雰囲気が広がり、2試合で約12万枚のチケットが売り切れになったことも含め、興行面では"成功"と呼べるシリーズとなったはずだ。

ただ......多くのファンに"Happy to here(ここにいられてよかった)"と感じさせたスタジアムの空気と比べ、肝心の試合内容は「最高だった」とは言い難かった。初戦は両先発が降板後も乱打戦が続き、17−13でヤンキースが勝利。両チーム合わせて30得点は今季メジャー最多で、決着までに4時間42分を要するゲームになった。

翌30日の2戦目も再び打撃戦となり、12−8とヤンキースが連勝。結局、同カードの2試合シリーズでは史上最多の合計50得点が入るというド派手な戦いになった。カジュアルなファンは打撃戦を好むというのが一般的な見方だが、この大味で冗長な2試合に英国人たちが感心したかどうかは微妙だろう。

また、田中だけではなく、多くの投手たちが制球に苦しんだことに対しても疑問の声が噴出した。『ESPN.com』のバスター・オルニー記者は、両軍間でも話題になったという、異常な打撃戦の理由についてこう話した。

「もともと陸上競技のために造られたスタジアムで、クアーズ・フィールド(アメリカ・コロラド州デンバーのスタジアム)のように空気がカラカラに乾いていた。打球が飛びやすく、変化球の動きも小さくなるため、いつもは低めに投げてくる田中も制球が乱れたのではないか」

一部のメディアからは、イギリスのファンを喜ばせるために、物議を醸した17年のワールドシリーズ同様に「普段と違う滑りやすいボールが使用されたのではないか」という真偽不明の噂も飛び出した。真の原因を特定するのは容易ではないが、ピッチャーが普段どおりの投球ができる環境ではなかったのは事実に違いない。対策もできぬまま真っ先にマウンドに立った田中には極めて酷な舞台だった。

MLB、イギリスが手を取り合って、美しいショーケースイベントをつくり上げたことは評価されてしかるべきだ。ただ、肝心の選手が最高のパフォーマンスを発揮できないようでは魅力は半減する。来年も継続されるこのシリーズは、重要な第一歩を踏み出した一方、大きな課題を残したと言っていいだろう。

取材・文/杉浦大介 写真/Getty Images

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