「一にも二にもスペイン語をマスターすること。アピールは、それからでも遅くない」宮澤ミシェルが考えるバルセロナに移籍した安部裕葵がやるべきこと

「一にも二にもスペイン語をマスターすること。アピールは、それからでも遅くない」宮澤ミシェルが考えるバルセロナに移籍した安部裕葵がやるべきこと

安部裕葵について語った宮澤ミシェル


サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第108回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、安部裕葵(あべ・ひろき)について。今年の夏にバルセロナに移籍し注目を集めている安部に対して宮澤ミシェルは、「遠回りしてでも、着実に成長を遂げてもらいたい」と語る。

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安部裕葵はしばらく大変だろうなと思うよ。この夏からバルセロナBに移籍し、7月31日に3部(実質4部)所属のサンフェリウエンとの練習試合に途中出場した。バルセロナBにデビューしたというだけで、バルセロナや日本のサッカーメディアが取り上げるんだから。

安部への純粋な期待は当然あるだろうけど、バルセロナのメディアにしたら久保建英をライバルのレアル・マドリードに奪われた思いが強い。だから、同じ日本人選手の安部に注目している部分もあるんだと思うよ。

ただ、安部はそうした外野の声に惑わされることなく、自分が信じた道を突き進んでもらいたい。まだ20歳だからね。言葉だってままならないなか、実際には今年一年は練習生のようなものだよ。

だから、焦ることはない。バルセロナBには才能に溢れた選手たちが世界中から集まっている。そのなかで揉まれながら、一歩一歩着実に成長を遂げてもらいたいと思っている。その点でバルセロナBが今季もセグンダB(実質3部)を戦うのは、安部にとって好都合に思うんだ。

安部はデビュー戦の練習試合ではインサイドハーフで起用されていたけど、伝え聞くところによると、バルセロナとしては安部を当面はサイドバックで育てたいらしいんだ。安部も「ポジションはどこでもやります」と意気込んでいるそうだよ。

この情報の真偽のほどはわからないけれど、いろんなポジションにトライすることはチャンスが増えるから大事だよ。現在はパリ・サンジェルマンのGMをしているレオナルドだって、クラブではトップ下をやっても、確固たる地位を築くまではブラジル代表ではサイドバックをやっていたじゃない。あれと一緒だよ。

まあ、現時点の安部をレオナルドと比べるのは少し可哀相だけどさ。今年は調子が上がらずにJリーグでもベンチを温めることが多かったからね。ただ、持っているポテンシャルが高いのは間違いないよ。

安部はスピードという特長がはっきりしているから、監督にとっても起用しやすいと思うんだ。たぶん久保よりも足は速いんじゃないかな。しかも、今年の鹿島のキャンプで安部を見た時に感じたのは、初動の速さ。20mくらいまでのスピードは、本当にいいものを持っているよ。

実際に右サイドバックに挑戦するのなら、あのスピードは武器になるのは間違いないね。守備は場数をこなすしかないよな。内田篤人だって海外に渡った当初は守備が通用しなかったけれど、外国人選手とのマッチアップを重ねるなかで、距離感を覚えていって上達したからね。

ただ、安部がサイドバックに挑戦するのはバルセロナBだってことを忘れてはいけないよな。バルサのサイドバックは、1対1の強さや、フィジカルの強さばかりを求められるわけではないからね。

彼らにとってのサイドバックは、攻撃に厚みをもたせるための存在なんだよ。相手をマンマークしてガッチリ止めるのではなく、自分たちがボールを持っているときに、相手のサイドの選手を押し込むくらいの迫力が求められる。

その点で安部の攻撃力には心配はない。テクニックだって優れている。あとは、言葉だな。安部の持っている能力を存分に発揮し、ここから大きく成長するためには、一にも二にもスペイン語をマスターすること。

監督にしたら試合中にピッチサイドから指示を出しても、言葉が通じているかどうかわからない選手を起用するのは躊躇(ちゅうちょ)するものだからね。守備の選手ならなおさらだよ。その指示が理解できないばかりに失点につながる可能性があるんだから。

4年契約だっていうから、最初の1年は死にものぐるいで語学を勉強して、2年目からピッチのなかで必死にアピールすればいいんじゃないかな。1年や2年、遠回りしたとしても、日本にいたら経験できないクラブに移籍したんだから。

まだ失うものがない。それが最大の強みだって安部もわかっているんじゃないかな。だからこそ、困難な道にチャレンジしたと思うんだ。4年契約が終わったとしても、24歳! なんでもやれるよね。

それにしても、安部がバルサで久保がレアル。日本人選手がBチームとはいえ、トップクラブに移籍するなて、夢のような話だよな。ただ、彼らの挑戦はまだ始まったばかりで、成功する保証なんて小指の先ほどもない。だからこそ、過度な期待はせずに、温かい目で見守ってもらいたいな。

構成/津金壱郎 撮影/山本雷太

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