雑草キャリアでダイヤの原石。鹿島アントラーズ番記者が語るバルセロナ・安部裕葵のスゴさ!

雑草キャリアでダイヤの原石。鹿島アントラーズ番記者が語るバルセロナ・安部裕葵のスゴさ!

2017年に行なわれたJリーグワールドチャレンジvsセビージャ戦で驚愕のドリブルを披露し、マン・オブ・ザ・マッチに選出された安部裕葵

レアル・マドリードに移籍した久保建英に続き、またしても日本人選手が世界的ビッグクラブへ! あのバルセロナから目をつけられた安部裕葵(あべ・ひろき)のプレーや人間性を、新人時代から追い続ける鹿島アントラーズ番記者が明かす!

■久保とは対照的な"雑草"キャリア

6月の南米選手権で日本代表に初選出された鹿島アントラーズの安部裕葵がバルセロナ(スペイン1部)に移籍した。

バルセロナといえば、世界最高のフットボーラーとも称されるアルゼンチン代表のリオネル・メッシを擁する世界的名門クラブである。そのライバルクラブであるレアル・マドリード(スペイン1部)に日本代表の久保建英(たけふさ)が加入したかと思えば、今度はバルセロナに20歳の日本人選手が加入しようとしている。

幼い頃からバルセロナの下部組織で育った久保は知名度も高く、今後の日本サッカー界を背負う存在として大きな期待を寄せられてきた。その久保がFC東京から古巣のバルセロナではなく、最大のライバルであるレアル・マドリードに加わったことは、日本だけでなくスペインでも大きく報じられた。

一方、久保に比べると安部の存在はそこまで知られていない。安部裕葵とはいったいどんな選手なのか、その歩みを追ってみよう。

1999年生まれ、東京都出身の安部は北区の町クラブである城北アスカFC(現・城北ボレアスFC)でサッカーを始める。「兄貴がサッカーに行くなら俺も行く」と2歳上の兄の背中を追いかけ、ごく自然にサッカーの世界に足を踏み入れた。

地域のトレセンや都のトレセンにこそ選ばれたことはあるものの、その当時は背が低かったという。今では171cmある身長も当時は「『前、ならえ!』をしたことがない」というほど。つまり、いつも列の一番前に立っていたそうだ。

その後、帝京FC(現・S.T.FOOTBALL CLUB)を経て広島の瀬戸内高校に入学。全国的に知られた選手ではなかったが、インターハイでの活躍を認められ鹿島アントラーズの門を叩く。いわば久保とは対照的に日本の町クラブと高体連が生んだ"雑草"ともいえるキャリアの持ち主だ。

■世界的強豪をドリブルで翻弄!

ただ、技術の高さは鹿島に来たときから際立っていた。筆者が彼を初めて見たのは2016年末に鹿島の練習に参加したときだったが、彼の利き足が左右どちらなのか判別できず、獲得したスカウトマンに尋ねて確認を取ったほど。ボールの持ち方に癖が少なく、左右のどちらでも同じようにプレーできた。

「サッカーに年齢は関係ないですから」

そう言って、1年目ながら果敢にドリブルを仕掛ける姿は練習から目立っていた。

「平均点じゃ試合に出られないんで。今スタメンの人はチャレンジしなくても試合に出られるかもしれないけれど、僕はチャレンジしないと試合には出られない」

試合に出るためにはまず結果を出さないといけない、と自分にハッパをかけ、何度も突破に失敗しながら挑戦を続けていた。

その姿は鹿島の先輩でもある内田篤人や柴崎岳(ヘタフェ/スペイン1部)といった日本代表でも中心を担う選手と重なった。彼らは、自分がプロの世界で生き残るためには何が必要で、今何が足りないのか自覚し、それを埋めるためにどういう道筋を通って前進していけばいいのか、若い頃から明確にイメージできていた。その姿とダブるところが多かった。

そのチャレンジ精神が表れたのが17年7月に行なわれた「Jリーグワールドチャレンジ」でのセビージャ戦だろう。中盤でパスを受けた安部は、フランス代表のエンゾンジをファーストタッチでかわすと一気に加速。寄せてくるDFもダブルタッチでかわし、鈴木優磨のゴールをアシストした。

2−0で勝利した試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは当時18歳の安部だった。「ああいうプレーは自分の得意なプレー。ああいう相手でも通用するんだな、とすごい自信になった」と初々しいコメントを残しつつ、「セビージャの選手よりうまくなりたい。自分はまだ18歳ですし、時間もある。一日、一日を無駄にせず、早く追いついて追い越したいと思います」と言った。

続く18年に鹿島はアジアチャンピオンズリーグ(ACL)を制覇し、クラブW杯に出場する。そこでメキシコの名門クラブであるチーバスからゴールを挙げるなど、海外クラブとの対戦に強いところを見せる。

準決勝ではレアル・マドリードに1−3と完敗を喫したものの、試合後、奮闘する安部を見た内田篤人は「日本にとどまっている選手じゃない」と評した。

■粗削りな"ダイヤの原石"はスペインで輝く

しかし、実績という意味ではバルセロナへの移籍に納得できるほどの数字は残せていない。3年目のシーズンを迎えた今季のJリーグでの得点はわずか1。Jリーグ通算でも4得点しか挙げておらず、ACLを含めても5得点にとどまる。

攻撃的MFとして圧倒的な結果を残したとは言い難い。すでにプレーが完成されている久保建英と違い、まだまだ"ダイヤの原石"と言えるだろう。

しかし、逆に言えば、だからこそスペインに渡る意味がある。俊敏性が高い割にボールの受け方や体の使い方は粗削り。相手の逆を取る動きもバリエーションは少なく、ステップの踏み方も小柄な割に大股になることが多く、小回りのよさを生かせていない。

ボールを奪うときも足先で突くことが多く、久保のように体を寄せて奪い切る技術が身についていない。

スペインではこうした部分を徹底的に鍛えられるだろう。海外移籍をすると「試合に出られなければ意味がない」という意見を多く耳にするが、日本の町クラブや高体連が大切に育ててきた選手が、欧州の最先端理論をトッピングされたらどんな変化を起こすのか、非常に楽しみだ。

これまでのサッカー人生で受けた指導に対して「納得がいかなくても全部素直に聞いてきた」という安部。頭がよく理解力にも実践力にも優れた選手が新しい技術指導を受けたら......。

日本代表で久保建英と共演するだけでなく、世界が注目するレアル対バルセロナの"クラシコ(伝統の一戦)"での日本人対決が実現するかもしれない。

「3年以内に海外に行きたい」

鹿島加入初年度にそう言っていた安部。その3年目のシーズンに大きなチャンスを手にしようとしている。

取材・文/田中 滋 写真/アフロ

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