全英オープンを制した渋野日向子ら、女子ゴルフ"黄金世代"が強い理由

全英オープンを制した渋野日向子ら、女子ゴルフ"黄金世代"が強い理由

全英オープンの優勝トロフィを手に、笑顔を見せる渋野。プレー中もお菓子を食べながら笑顔を絶やさなかった姿が印象的で、スマイルシンデレラという愛称で呼ばれるようになった

昨年プロテストに合格した渋野日向子(しぶの・ひなこ)が、日本の女子プロツアーで初優勝したのは、今年5月のワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ。それからわずか3ヵ月後には、海外の試合に初挑戦したAIG全英女子オープンで優勝する快挙を成し遂げた。

そのふたつの試合は、日米の女子プロツアーにおける"メジャー大会"である。メジャー競技とは、難易度や格式、賞金などにおいて、ほかの試合とは一線を画す最高峰の試合を指す。世界はおろか、日本でもほぼ無名の存在だった渋野が、どうしてメジャーで優勝できたのか。

全英の前に、渋野に今季の好調の理由を聞いた際には、こんな答えが返ってきた。

「ワールドレディスで優勝したあたりの数値(スタッツ)で、パッティング(1ラウンド当たりの平均パット数)が1位か2位だったので、好調の理由はたぶんパッティングなのかなと思います。でも、パターを替えたとか、フィーリングを変えたということはありません。強いて言えば練習方法くらいですかね」

その練習方法とは、9ホールすべてを1パットで上がることを目指し、カップを中心にして円を描くように9個のボールを置いて打つというもの。最短のパットが1mで、時計回りに50cm刻みで距離を長くしていき、最長のパットは5mになる。距離、傾斜、芝目が違うラインから打つ効率的な練習だ。

同じようなサークル式の練習はほかの選手もやっているが、渋野の練習にはルールに工夫がなされている。多くの選手は、1回でもパットを外したら最初からやり直すのだが、渋野の場合は9回のうち2回まで失敗をしていい。

ルールが緩いようにも思えるが、この"渋野式"は「9ホール中、2ホールはボギーを打ってもいい」という、実際のラウンドを想定している。仮に3m50cmを外した場合、最初からやり直しになると集中力が切れてしまうが、渋野式はあとひとつミスが許されるため、そこから集中力を増していけるのだ。

この練習で、諦めずに巻き返すメンタル面も強化されたのだろう。8月20日現在の日本女子プロゴルフ協会のランキングでも、渋野は平均パット数で3位と上位を維持しているが、ボギーを打った後にバーディーを獲り返す「バウンスバック率」はトップだ。

全英女子オープンでも、前半でダブルボギーとボギーをひとつずつ叩いたものの、そこで気落ちせずに後半の9ホールで5つのバーディーを記録。特に、優勝がかかった最終18番ホールでの強気なウイニングパットは、世界のゴルフファンを驚かせた。

この練習法を渋野に課したのは、2年前からタッグを組んでいる青木 翔コーチだ。近年、プロを教えるコーチはビデオを使ってスイングの細かな部分をチェックする手法を使うが、青木コーチは違う。

その理由は、「細かな部分にこだわることで、もともと持っているよさを消してしまうことを避けたいから」だという。渋野に関しては、インパクトの前後で体が起き上がることを抑える練習を重点的にやってきたが、ほかはさほどいじっていないそうだ。

そうして渋野の才能を開花させた青木コーチも、「この時点で結果を出すポテンシャルはすごいですね」と舌を巻く。確かに、優れたコーチの下で練習をしてきたとはいえ、わずか2年で世界の頂点に立つことは、高いポテンシャルがなせる業といっていい。

実は、同じように高いポテンシャルを持つ選手が、渋野と同年代には固まりになって存在する。今や、日本の女子プロゴルフ界を引っ張る存在になっている"黄金世代"の選手たちだ。

その世代とは、1998年4月から99年3月に生まれた20歳前後の選手たち。現在は渋野をはじめ、畑岡奈紗、勝 みなみ、新垣比菜、大里桃子、河本 結、原英莉花、小祝さくら、三浦桃香といった選手たちが、賞金ランキングを席巻している。

なぜ、この年代に強い選手が集まったのか。考えられる理由は3つある。

ひとつは宮里 藍の存在だ。宮里がアマチュアとしてプロの試合で勝ったのは03年で、黄金世代の選手たちが4歳、5歳のとき。宮里の活躍を見た親たちが「わが子も」とゴルフを始めさせ、"藍ちゃん"を目標に成長した子供たちが黄金世代になったのだ。

ふたつ目は、15年からJGA(日本ゴルフ協会)ナショナルチームのHC(ヘッドコーチ)を務めている、イギリス人のガレス・ジョーンズ氏の存在がある。

ツアープレーヤーとして活動した後、オーストラリアのナショナルチームコーチなどを経験したジョーンズ氏は、コースの情報収集やグリーンに近い場所からのショットなどを重視。黄金世代の選手たちは、そんな世界水準の強化プログラムを取り入れた指導を受けた、最初の世代なのである。

そして3つ目は、相乗効果だ。ライバルがいることで、お互いがリミッターを外したように成長するのはよくあること。黄金世代でいえば、アマチュア時代の勝みなみが、14年に高校1年生でプロの試合で優勝して同年代の選手たちを刺激。

さらに、畑岡奈紗が18年に米女子ツアーで優勝したことで、「自分たちも世界で戦える」という気持ちが高まったのだろう。

渋野の全英女子オープン制覇が、黄金世代の闘争心をかき立てたことは間違いない。今後、世界の舞台で活躍する選手が何人出てくるのか。この世代の選手たちはそんな期待を抱かせてくれる。

取材・文/古屋雅章 写真/ロイター/アフロ

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