"打ち切り"のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ最終戦で、室屋義秀が狙う逆転の総合優勝

"打ち切り"のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ最終戦で、室屋義秀が狙う逆転の総合優勝

2009年のデビューから、休止期間を挟んで8シーズン目を戦う室屋。最後の千葉大会で2度目の総合優勝なるか

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ(以下、エアレース)が、今年も千葉・幕張海浜公園で9月7日、8日に開かれる。今年で5年連続の千葉開催だが、今回初めてシーズン最終戦として行なわれるだけに、一昨年の年間総合王者、室屋義秀(むろや・よしひで)が地元での王座奪還なるかに注目が集まる。

とはいえ、今回の千葉でのレースが過去4年以上に注目されるのは、ほかにも理由がある。2003年に始まったエアレースは、05年から国際航空連盟公認の世界選手権となって以来、3年の休止期間を除き、毎年世界各地で開催されてきた。だが、その歴史に今年、ピリオドが打たれることが決まったのだ。つまり、これがエアレースの、まさしく"最終戦"なのである。

近年は、シーズン前にレース日程が発表になっても、いくつかのレースの開催日や会場が決まっていない、あるいは決まっていても、その後変更になるといった事態が相次いだ。F1などと比べれば、ワールドチャンピオンシップを名乗るには、運営面の危うさがあったのは確かだ。

しかし、世界各地で人気を博し、多くの観客を集めていたのも事実。例えば、一昨年にポルト(ポルトガル)で行なわれたときは、レース会場となった市内中心部を歩いて移動するのも難しいほど、多くの観客が詰めかけた。また、日本での人気の高さは世界的に見ても特別で、その人気ぶりには、出場している外国人パイロットたちも目を丸くするほどだった。

それだけに、今回の決定は少々解せない。公式サイトによれば、「レッドブルが行なうほかのイベントに比べ、世間の関心を得られなかった」とのことだが、そのコメントを真に受けるのは難しい。

しかも、エアレースでは、14年にチャレンジャークラスという新たなカテゴリーを設け、次世代パイロットの育成も進めていた。決してその場限りの見せ物ではなく、永続的な開催を視野に入れ、行なわれてきたモータースポーツなのだ。

さらに言えば、5月の終了発表の後も、チャレンジャークラスのパイロットを対象にした、トレーニングキャンプまで行なわれている。これでは、どうにもつじつまが合わない。今年のレース数を8から4へと半減し、事実上の"途中打ち切り"にしてまで突然終わらせるのは、何か別の理由があるからではないのだろうか。

残念ながら、その疑問に対する明確な答えは得られていない。だが、レース関係者やチームスタッフなどに取材した筆者個人の印象で言えば、これまでとは違う形での継続が探られているのではないか。安易なことは言えないが、その可能性を感じている。

さて、話を千葉のレースに戻そう。

シーズン最終戦の最大の注目点は、言うまでもなく、年間総合優勝の行方である。タイトル争いはランキング上位3名、首位のマルティン・ソンカ(チェコ)、2位のマット・ホール(オーストラリア)、3位の室屋に事実上絞られており、千葉での結果によって今年の世界チャンピオンが決定する。

今年の室屋は、2月の開幕戦、6月の第2戦に連勝。ランキング首位を快走し、もはや総合優勝は確実かと思われていた。ところが7月の第3戦で、12位とまさかの惨敗。最終戦を前に総合3位へ転落し、自力優勝の可能性も消えてしまった。

つまり、室屋が最終戦で優勝しても、ソンカやホールの結果次第では、トップには届かない。「十分、総合優勝圏内にいると思っている」と話す室屋だが、できるだけ多くのポイントを獲得した上で、ライバルたちの結果を待つことになる。

現在総合トップのソンカは、昨年のチャンピオン。盤石の戦いぶりは今年も健在で、過去3戦で優勝こそないものの、2位、2位、4位と、安定感は際立っている。また、ランキング2位につけるホールは、過去に3度の年間総合2位があり、あと一歩の悔しさを誰よりも味わってきた。ラストチャンスにかける思いは強いだろう。

室屋は単に勝ち上がるだけでなく、タイムの上でもライバルたちの焦りを誘うような、圧倒的な強さを予選から見せていきたいところだ。

最終戦を前に、室屋とソンカのポイント差は10。今年からポイント制度が変更になったため、単純な比較はできないが、現時点での状況は、2年前――室屋が最終戦に勝ち、首位のソンカを逆転して世界王者になったときとよく似ている。その点では、追われるソンカより、追う室屋のほうが心理的に有利かもしれない。

室屋自身も2年前を振り返り、こう話している。

「あのときは、やれるだけの準備はやったという自信もあったので、とにかく実力を出し切れれば、勝っても負けてもいいやって、ちょっと楽しかったんです。今回もそういうレースにしたいですね」

一時はフリーター同然の生活を送ったこともある苦労人が、「操縦技術世界一」を目指し続け、ついに世界の頂点に立ったのがエアレースという舞台。それだけに、終了の知らせには複雑な思いもあるだろう。だが、「今は千葉に向け、日々できることは限られているので、先のことを考える余裕がない。感傷に浸っていても勝てないから」と、室屋は勝負だけに集中する。

「メディアも注目するなか、できるだけの準備をして、最後にどれだけ力を出せるか。それが自分でも楽しみです」

年間総合優勝の快挙から2年。室屋は有終の美を飾るべく、ラストレースに挑む。

●室屋義秀(むろや・よしひで) 
1973年1月27日生まれ、奈良県出身。1991年に中央大学航空部に入部し、1993年、渡米して飛行機のライセンスを取得。国内外でエアロバティックス(曲技飛行)の腕を磨き、2009年にエアレースデビュー。2016年の千葉大会で初勝利、翌年には日本人初の総合優勝を果たした

取材・文/浅田真樹 写真/AFP/アフロ ゲッティイメージズ

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