W杯2次予選で格上UAEを撃破! タイ代表を率いる西野朗監督の現在地

W杯2次予選で格上UAEを撃破! タイ代表を率いる西野朗監督の現在地

今年7月からタイ代表を率いる西野監督。W杯アジア2次予選では順調なスタートを切った

9月に開幕した2022年カタールW杯アジア2次予選。ミャンマー、モンゴル、タジキスタンに3連勝した日本代表はもちろんだが、昨年のロシアW杯で日本を16強に導いた西野朗氏(64歳)が指揮を執るタイ代表の戦いにも注目が集まっている。

今年7月に西野氏が監督に就任したタイは、9月5日にホームでベトナムと0−0で引き分け、同10日にはアウェーでインドネシアに3−0と快勝。ただ、アジア2次予選を突破できるのは、グループ1位の8チームと、2位の成績上位4チームのみ。今月15日のホームでのUAE戦は、タイにとって現在地を確かめる一戦となった。

会場はバンコク近郊のパトゥンタニ県のタンマサート・スタジアム。近年、タイサッカーといえば国内リーグで多くの日本人選手がプレーすること、またタイのトップ選手のMFチャナティップ(札幌)やMFティティパン(大分)、DFティーラトン(横浜Fマ)らがJリーグでプレーすることが話題になってきたが、前回のW杯予選で最終予選まで進出したこともあり、現在は代表チームの人気が急上昇中だという。

試合当日、キックオフ2時間前にスタジアムに到着すると、周辺には出店やスポンサーブースが多数出ており、約1万6000枚のチケットも即日完売したそうで、レプリカユニフォームを着たサポーターらで活気に満ちていた。

タイにとって痛手だったのは、エースのチャナティップのほか、ティティパンら主力数人をケガで欠いたこと。とりわけ、チャナティップの不在は心配され、現地メディア『PLAN B イレブン』のモントリ・サンカム記者も「ホームで勝ち点3が欲しいけど、状況を考えれば、相手は(格上の)UAEだし、勝ち点1でも取れれば......」と弱気だった。

しかし、試合開始からペースを握ったのはタイだった。ホームの大歓声をバックに出足の良さを見せ、26分に左からのクロスに昨季まで広島でプレーしていたFWティーラシン(ムアントン)が合わせて先制した。

その後も左SBのティーラトンが抜群の存在感を見せたほか、19歳のエカニット(チェンライ)、20歳のスパチョーク(ブリーラム)ら西野監督が抜擢(ばってき)した若手が躍動。前半終了間際に一瞬の隙を突かれて同点弾を浴びたものの、内容やチャンスの数ではタイが圧倒した。

後半もUAEの司令塔オマル・アブドゥルラフマン(アルヒラル)らが精彩を欠いたことで、タイが終始ペースを握ると、51分に先制点をアシストしたエカニットが右クロスに合わせて勝ち越し。

この1点を守り切ったタイがグループ最強とみられたUAEから貴重な勝ち点3を奪って、2勝1分けでベトナムと並んだものの、得失点差でG組の首位に立った。

試合後、西野監督は約100人の報道陣が集まった会見場に拍手で迎えられ、「皆さんが予想していたとおりの結果になった」と笑いを誘うと、こう続けた。

「選手が狙いを持って、ハードワークしてくれた結果。前半のキックオフの瞬間からUAEよりもアグレッシブにアクションを起こしてプレーをしてくれた。先制して、一度は同点に追いつかれながら、そこから突き放せたことは今後の財産になる」

タイといえば文化や言葉の違いに加え、年間を通して温暖な気候のせいか、一般的に時間や規律にルーズだという印象があっただけに、その指揮官を日本人が務めるのは簡単ではないと思われた。

だが、タイといえども、代表選手ともなれば育成年代からしっかりと指導されている選手が多く、練習に遅れて来るような選手は皆無。就任から約3ヵ月で早くも西野監督の考えがチームに浸透しつつあるという。

「通訳がいいのか、自分の意図が選手によく伝わっている感覚はある。もちろん、ひとりひとりの力が足りない部分はあるので、規律やチームで戦うことは強調している。ただ今日のパフォーマンスは私の予想をはるかに超えていた。1試合1試合よくなってはいたが、ケガ人もいたなか、これほど変わるかと(苦笑)」

現地メディアでもその人柄や手腕は高く評価されつつある。『FOXスポーツ』タイ版のバス記者は、西野監督の印象について、女性目線も交えながらこう話してくれた。

「ベンチでも大げさなアクションをする姿は見たことがないし、穏やかな人。練習に対する厳しさやキャンプでの過ごし方など、西野さんがタイに持ち込んでいるものは少なくないし、今では選手だけでなく、メディアやファンまでが西野さんから何かを学べたらと思っているほど。質疑応答もわかりやすいし、もちろん、ダンディでカッコいいってことは万国共通かもしれない(笑)」

そして、まだ3試合を終えたばかりだが、西野監督への期待は大きいとする。

「チャナティップら主力がいないなかでどうなるかと思ったけど、それを感じさせない戦いぶりだった。UAEに勝てたのは大きいし、今後に希望がつながったのは間違いない。

もちろん、西野さんが来たからといって、タイが急に日本や韓国と肩を並べられるわけはないし、前回同様まずは3次予選(最終予選)に進むこと。でも、西野さんと一緒ならW杯へ行けるチャンスもあると思わない?」

FIFAランクは日本の31位に対し、タイは114位とアジアのなかでも決して高くない(UAEは66位)。だが、スタジアムの熱気やメディアの過熱ぶりは、Jリーグ創設時の日本に似ていると言えなくもない。

まだ始まったばかりだが、最終予選で西野監督率いるタイ代表と日本代表が顔を合わせるなんてことも可能性は十分。そうなれば、それはそれで面白そうだ。

取材・文・撮影/栗原正夫

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