育成選手から"大器"を生み出す、福岡ソフトバンクホークスの「いい金の使い方」

育成選手から"大器"を生み出す、福岡ソフトバンクホークスの「いい金の使い方」

ソフトバンクの3年連続日本一に大きく貢献した捕手の甲斐と投手の千賀は、共に育成ドラフト指名からはい上がり「育成の星」と称された

近い将来「能ある鷹は爪を隠す」という言葉は死語になってしまうのではないか。そんな心配をしてしまうほど、福岡ソフトバンクホークスから野球界に鋭い"爪痕"を残す大器が次々と出現している。

先日開幕したWBSCプレミア12。世界ランキング上位12チームが覇権を争う4年に1度の国際大会で、日本は上々の滑り出しを見せた。

台湾でのオープニングラウンドは3戦全勝で突破。初戦のベネズエラ戦は好リリーフを見せた甲斐野 央(かいの・ひろし)、2戦目のプエルトリコ戦は先発したアンダースローの高橋 礼と、いずれもソフトバンクの投手が勝利投手になった。

共に今季のパ・リーグ新人王を争う新鋭。特に高橋は6回を投げて被安打1、無失点と完璧な投球を披露した。

高橋は188cmの長身で最速146キロを計測する、日本球界に類を見ない本格派アンダースローだ。ソフトバンクは2017年のドラフト会議で高橋を2位指名したが、他球団の評価は決して高くなかった。

専修大時代の高橋は上級生になるとバランスを崩し、本来の投球ができなくなっていた。4年春には東都大学リーグ2部降格を経験。入れ替え戦に敗れた直後、チーム関係者が「今の状態ではドラフトにかからないレベルだと思う」と嘆いたほどだった。

4年秋に状態が上向いたとはいえ、ソフトバンクは高橋を上位指名する。低い位置から快速球を投げられる、高橋の"一芸"を高く買ったのだ。その結果、1年間かけて力をつけた高橋は見事に才能を開花。今季は先発ローテーションに食い込み、12勝をマークした。

近年のソフトバンクの勢いは、どのチームにも止められそうにない。今季はペナントレースこそ2位で終えたものの、クライマックスシリーズでリーグ優勝した西武を圧倒。日本シリーズではセ・リーグ王者の巨人を4連勝でスイープして、3年連続となる日本一に輝いた。

12球団イチの選手層を支えているのは、球団の育成体制である。高年俸の外国人選手やFA選手を獲得するだけでなく、自前で着実に有望な選手を育てている。

今や日本を代表する投手になった千賀滉大(こうだい)、「甲斐(かい)キャノン」でおなじみの捕手・甲斐拓也が、育成選手としてプロ入りしたことは有名だ。

育成選手とは、1軍の試合に出場できる「支配下登録選手(1球団当たり上限70人)」に入らない、育成目的で保有する選手を指す。ソフトバンクには、育成選手から1軍戦力へとのし上がるケースが続いている。

プレミア12の日本代表でいえば、甲斐のほかにも、代走のスペシャリストとして代表入りした周東佑京(しゅうとう・うきょう)も育成選手だった。

なぜ、ソフトバンクの育成選手は大化けするのか。それは「ドラフト」と「育成」の両輪から成り立っているからだ。

まずドラフトでは、「この分野なら一流」という一芸に秀でた選手や、スケールの大きな選手を数多く獲得している。甲斐などは"一芸選手"の好例で、入団当時を知る関係者は「肩だけはすごかったけど、バッティングは全然ダメでした。フリーバッティングでも打球が前に飛ばなかった」と証言する。

ソフトバンクのあるスカウトは「他球団では怖くて指名できない選手でも、ウチなら思い切って獲(と)ってくれるのでやりがいがあります」と語る。他球団が大きな弱点のないバランス型の素材を獲るのに対し、ソフトバンクはスケール型、一芸型の選手を獲得しているのだ。

ただ選手を獲るだけではない。ソフトバンクは育成にも力を入れている。3軍制を敷いて実戦経験を数多く積ませ、さらに16年には約60億円を投じて福岡・筑後にファーム施設を新設した。室内練習場のブルペンで投球練習をすると、直後にモニターに自分のフォームが映し出され、動作をチェックできる。選手がじっくりと実力を養成できる環境が整っているのだ。

ただし、ソフトバンクが獲得した全員が順調に育っているわけではない。当然、伸び悩む選手や故障で本来の力を発揮できない選手もいる。加えて、ドラフトで10人を指名するということは、球団を去る選手が10人出るということを意味する。ここでソフトバンクが特殊なのは、戦力外通告をした選手であってもソフトバンクグループで積極的に雇用することだ。

プロ野球は弱肉強食の厳しい世界だが、セカンドキャリアの道が担保されていることは大きい。選手自身はもちろん、何よりも選手を送り出すアマチュア側に安心感があるからだ。入団時に数百万円の支度金しか支払われない育成選手契約は、基本的にアマ側からは歓迎されない。それでも引退後の面倒も見てもらえるとなれば、「ホークスに預ければ安心」となる。

チームの強さを下支えしているのが、ソフトバンクグループの巨大な財力なのは間違いない。しかし、金に飽かせて選手を集めるようながめつさはなく、「いい金の使い方をしている」という印象さえ与えている。

今年10月のドラフト会議では、近年バランス型の選手を中心に獲得してきた巨人が、スケール型、一芸型の選手を数多く指名した。明らかにソフトバンクの育成力を意識し、参考にしていることがうかがえる。

今後、巨人のようなチームが巻き返すのか。それともソフトバンクの天下が続くのか。「ドラフトと育成」の両輪を打ち破るチームは、まだ現れそうにない。

取材・文/菊地高弘

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