宮澤ミシェルが考える女子サッカープロ化への課題「女子選手の良さが前面に出るようなルールにするのも手だと思う」

女子サッカーのプロ化について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第148回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは女子サッカーのプロ化について。2021年よりプロリーグの設立が決まっている日本女子サッカー。しかし、実際にプロ化を迎えるにあたっては、課題があると宮澤ミシェルは語る。

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日本サッカー協会は2021年に女子サッカーのプロ化を決定しているんだよね。来年だよ、来年。それなのに具体的なことの発表は無いままで、このコロナ禍を迎えちゃったでしょ。本当にプロ化はできるのか心配だよ。

現在のなでしこリーグの観客動員力は決して多くはないんだ。2018年シーズンの1試合の平均観客動員は1400人ほど。2000人を目指した2019年シーズンの数値は不明だけれど、昨年12月の皇后杯全日本女子サッカー選手権の準決勝は、第1試合が2033人、第2試合は776人。

ただ、ポテンシャルは秘めていると思うよ。昨年の皇后杯決勝の日テレ・ベレーザ対浦和レッズレディースには、1万12人の観客が詰めかけたからね。観客動員が見込めるのであればプロ化の追い風になるのは間違いない。だけど、逆に見込めないからと言ってもプロ化を諦める必要はないと思うんだ。

プロスポーツというのは、言わば興行であり、エンターテインメント・ビジネス。観客がチケットを買ってスタジアムに観に行きたいと思ってくれるかが勝負。そのためにはクオリティの高い試合をすることが必要だし、ファンサービスも充実していた方がいいよな。

なでしこは2019年ワールドカップではベスト16で敗退したけれど、若い選手がどんどん育っているんだよ。2018年U−20ワールドカップで優勝した世代もいるし、未来に向けてのタレントは揃っている。彼女たちのクオリティが、ひと回りもふた回りも高まってくれば、スタジアムに足を運ぶ人は増えるんじゃないかな。

ただね、サッカーに限らないけれど、女子スポーツのプロ化にとって最大の障壁になるのは、やっぱり同じ競技の男子なんだと思う。

サッカーならJリーグがあって、海外ならプレミアだ、スペインだ、ブンデスだって各国リーグもある。選手たちは最高峰の舞台を目指してステップアップしていくし、最高峰の舞台ではスペクタクルなプレーが見られるから人気を常に集めている。エンターテインメントとしてのサイクルが出来上がっているし、そうしたレベルの高いものが見たいと思うのが心情ってものだからね。

女子サッカーがプロ化するなら、そういう男子サッカーを見てきた人たちに、「女子サッカーのプロリーグはおもしろい」と思わせることができるか。そこが重要なポイントだと思うな。

もちろん、サッカーにまったく興味がない人たちに女子サッカーを見てもらう努力も大切。だけど、興味のない人にアピールしても効果は期待できないからね。にわかファンが運良く増えたとしても、それは一過性のブーム。なでしこリーグも2011年ワールドカップの優勝で一時は観客が増えたけど、結局はその人たちの足はスタジアムから遠ざかってしまったよね。

僕はなでしこリーグをプロ化するなら、男子サッカーとは違うルールでやるのも手だと思うんだ。男性と女性の肉体のメカニズムの違いを理解して、女子選手の良さが前面に出るようにしちゃうの。

たとえばゴルフは、男子と女子でルールは同じだけれど、コースレイアウトは女子の方が距離が短い。それによって女子プロゴルファーならではの技術や戦略がしっかり表現できるようになっていると思うんだ。決して彼女たちはファッションやルックスだけで注目されているわけではないし、そこのおもしろさがあるから男子ツアーよりも人気があると思うんだ。

女子サッカーも、男子サッカーとの差別化を取り入れる手はありだと思うな。たとえばピッチサイズを小さくするとか、逆にピッチは男子と同じサイズだけど、人数を1チーム12人に増やしちゃう。男子と同じピッチサイズだと、サイドからサイドへのチェンジボールなど、パワーや迫力の面で男子に見劣りしちゃうからね。特に日本女子選手は。

コートを小さくしたり、人数を増やしたりして選手間の距離を縮めることで、短所であるパワー不足は隠しちゃって、逆に日本の女子選手ならではの特長がより前面に出るようにすればいい。そうすれば男子とは違う魅力でサッカーファンにアプローチできる気がするんだよな。

これなら日本の女子選手の特長であるパスワークは、もっと洗練されるだろうし、素早さや正確性も高まっていくと思うだ。これは代表強化にもつながっていく。

もちろん、ローカルルールを取り入れる場合は、国際大会への対応も考えないといけなくなる。それでも全部を変える必要があるわけではないからね。小さなピッチで11人でやっている距離感を、広いピッチでも維持するようにすれば、ロングボールを蹴る必要はないし、パスワークで相手を崩していけるはずだよ。それに日本が独自ルールでやって興行的に大成功をおさめれば、国際ルールが変わらないとも限らないでしょ。

なんにせよ、なでしこリーグのプロ化は、プロ化することが目的じゃないってことを忘れないでもらいたいよね。多くの観客動員を生みだして興行として成り立たせる。それによって選手たちが高い金銭的な補償を得られるものにする。それを実現させることが、日本の女子サッカーリーグが夢のある女子プロスポーツとして認知され、多くの子どもたちの憧れの舞台になっていくわけだから。

構成/津金壱郎 撮影/山本雷太

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