「東京五輪でまん延する」と検査官が懸念する遺伝子ドーピングとは?

「東京五輪でまん延する」と検査官が懸念する遺伝子ドーピングとは?

東京五輪までの今後4年間で、より深刻化すると懸念されているドーピング問題。開催国としては薬物まみれになるのは何とか避けたいところだが…

日本人選手のメダルラッシュに沸き、歓喜のうちに幕を下ろしたリオ五輪だが、4年後の東京五輪にズシリと重い宿題も残した。

開幕前、反ドーピング活動を推進する国際組織、世界反ドーピング機関(WADA)が報告したロシアのドーピング問題。それは国家ぐるみの薬物使用と隠ぺい工作の実態を伝える驚愕の内容だった。

大会期間中にも、中国やブラジルをはじめ、禁止薬物を使用した選手が数名発覚。いずれも失格処分となった。WADA公認の薬物検査機関に所属するベラ・シュナイダー博士がこう話す。

「これから参加選手すべての追跡調査が本格化します。今後、違反者は数十人単位で拡大するでしょう」

しかし、4年後の東京五輪では、ドーピングの使用がさらに横行すると予測する。

「国主導の薬物使用はロシアだけの問題ではありません。ドーピングを国策として進める中国、開発技術が高いといわれるスロベニアなど組織的にドーピングを行なっている国は少なくない。この問題は年々、深刻化しています。4年後は検査の網をすり抜ける高度なドーピングを使用する選手が増加し、かつてないほど薬物に汚染された五輪となるかもしれません

では現在、ドーピングはどんな種類のものが多用されているのだろうか。

リオ五輪では重量挙げのモンゴル人選手がテストステロン(ステロイドの一種)、自転車競技のブラジル人選手がエリスロポエチン(EPO)という禁止薬物で失格処分となっている。ドーピング事情に詳しい十文字学園女子大学の高橋正人教授がこう話す。

「ステロイドは、経口薬や注射で体内に投与することで筋肉量を増やす筋肉増強剤のこと。陸上短距離や重量挙げなどスピードやパワーが求められる競技で多用され、体操など細かな技術を要する競技では急な筋肉増加が感覚を狂わせるので使用されません。EPOはマラソンや自転車競技で使用されるケースが多い薬物。注射で体内に注入すると酸素を運搬する赤血球が血液中に増産され、持久力を高めます」

だが、いずれも体内にない成分を投与するので検査でバレやすく、アメリカやロシアといったスポーツ医学の先進国では下火なのだという。

前出のベラ・シュナイダー博士が続けてこう話す。

「そこで近年、検査で判別しづらいドーピングとして、筋肉増強にはボディビルダーに服用者が多いヒト成長ホルモン、持久力増強には“自血輸血”が多用されるようになりました」

自血輸血とは?

「競技前に自分の血液を抜き取り、赤血球が不足した状態を作り出します。この状態に体を適応させ、競技直前に抜き取った自分の血液を戻す。これによって酸素運搬を果たす赤血球が“水増し”され、持久力が高まります。

ある自転車競技の選手の言葉を借りれば『輸血を受けると口を開ける必要がないほど呼吸が楽になる』ほど効果が高く、自分の血液を輸血しただけなので、検査でも陽性反応が出づらい」

こうした高度なドーピング技術が続々と開発されていく背景には一体何が…。

「まず、裏ビジネスとしてドーピング薬を開発、製造するバイオベンチャーの存在があり、そこで生み出された薬物が犯罪組織も介在する闇市場に流通するケースもあります。また、自身の研究成果を『人間で試したい』という欲望を抑えきれない、倫理観が欠如した研究者や医師の存在も…」(前出・高橋氏)

その一方でドーピング検査の精度も向上し、いたちごっこの状況が続いている。

WADAが禁止する薬物の数はドーピング検査が始まった1968年に約30種類だったものが現在では200種類超に。ドーピング防止を目的にアスリート向けに薬の指導を行なうスポーツファーマシストの遠藤敦氏がこう話す。

「運動能力を上げる新たな薬物が発見されるたびに禁止薬物が追加され、それに応じて検査機器や検査方法も開発されてきました。また、WADAが定める検査方法も年々厳格化され、今では競技後の検査に加えて選手に3ヵ月間のトレーニングスケジュールを提出させ、抜き打ち検査を実施。その際の尿検査では男女とも、検査員の目の前で採尿することが義務づけられています」

そんな中、いま専門家の間で「4年後の主流になる」と懸念されているのが“遺伝子ドーピング”だ。

「遺伝子の組み換えによってパワーやスタミナを高める筋肉を作り出すものです。なかには、筋ジストロフィー(筋肉が次第に減っていく難病)の遺伝子治療技術を悪用したものもあり、動物実験で異常なほど筋肉が隆々の牛やスタミナ抜群の“マラソンマウス”が誕生しています」(遠藤氏)

遺伝子ドーピングを使用すると、アスリートの身体はどう変貌するのだろう。また、スポーツ界ではそれ以上に検査で見破れないと懸念されている“ステルス・ドーピング”の存在も…。

★後編⇒『鍼や脳外科施術で筋力増強、東京五輪では“ステルスドーピング”が蔓延する!』

(取材/岸川 真)

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