エースの復活、苦労人の開花も。今季のプロ野球、新天地で輝きを放つ男たち

開幕6連勝を果たした8月5日のソフトバンク戦後に、ポーズを取った楽天の涌井。その試合では9回1アウトまで1本もヒットを許さない快投を披露した

「所変われば品変わる」というが、プロ野球の世界でも環境の変化によって劇的な進化を見せる男たちがいる。今季は特に投手の活躍が目立っているが、鮮烈な復活を見せたのが涌井秀章(わくい・ひであき/楽天)だ。過去には西武、ロッテで合計3度の最多勝利のタイトルを獲得。15年間のプロ人生で通算133勝を挙げてきた大投手である。

だが、ロッテに在籍した過去3年は5勝、7勝、3勝と不本意な年が続き、世代交代が進むチームでは構想外に。移籍を志願して楽天に金銭トレードされると、今季は開幕から無傷の6連勝(成績は8月9日時点のもの。以下同)。ストレートのキレが蘇(よみがえ)り、小山伸一郎コーチに教わった新球のシンカーで投球の幅を広げた。

楽天は近年、石井一久GM(ゼネラルマネジャー)が辣腕(らつわん)を振るい、岸孝之、浅村栄斗、牧田和久と西武出身の大物を続々と獲得している。そんな気安い"西武人脈"も本来の力を発揮する一因になったのだろうか。

34歳にして巻き返し、プロ通算150勝も視界に入ってきた涌井。「ベテランの星」はシーズンの最後まで輝けるのか、目が離せない。

ドラフト1位と高い評価を受けて入団しながら停滞し、トレードをきっかけに浮上する選手もいる。

今年、日本ハムの先発陣の一角として4勝1敗、防御率1.82と好成績を収めている杉浦稔大(としひろ)は、2013年にドラフト1位でヤクルトに入団した。大学時代から速球の質が高く、先発ローテ入りを期待されたものの相次ぐ故障に悩まされた。私生活では元モーニング娘。でアナウンサーの紺野あさ美との結婚で話題を提供したが、野球では肩・ヒジのリハビリに追われていた。

だが、日本ハム移籍後は栗山英樹監督が故障の再発を防ぐために、登板間隔を空けて大事に起用。今季は開幕から好調をキープしている。北海道出身の杉浦にとって、恩返しの快進撃はまだ始まったばかりだ。

福井優也とのトレードで楽天から広島に移籍した菊池保則(やすのり)は、若手時代から潜在能力の高さを買われながら、殻を破れずにいた。ところが、移籍1年目の昨季、菊池はリリーフとして開眼。

自己最多の58試合に登板し、防御率2.80、15ホールドと、プロ12年目にして初めて1軍実績を残した。13年目の今季も重厚な肉体から放たれる剛球を武器に、救援陣を支えている。

血の入れ替えが盛んな巨人では、楽天から移籍したゼラス・ウィーラー、高梨雄平がそれぞれ貴重な戦力として機能している。ウィーラーは楽天時代の5年間で通算106本塁打を放った強打者。

だが、今季は外国人枠の関係で2軍暮らしが続き、池田駿とのトレードで巨人へ。鬱憤(うっぷん)を晴らすかのような打撃と、喜怒哀楽を過剰に表現するキャラクターでも注目を浴びる。

高梨は中継ぎ左腕としてプロ3年間で164試合に登板しながら、今季は楽天で1軍戦力構想から外れていた。だが、田萌生(たかた・ほうせい)とのトレードで巨人に加入すると、10試合連続無失点、被安打わずか2と、まさに水を得た魚のようだ。

社会人時代には、ドラフト指名されなければ翌年からの野手転向が決まっていたという。そんな日陰の道を歩んだ苦労人が人気球団で輝くのだから、人生はわからない。

近年はFAで選手が移籍する際に発生する「人的補償」で若手有望株が流出し、移籍先でブレイクするケースが目立つ。巨人が大竹寛を獲得する際に人的補償として広島に移籍した一岡竜司、巨人が山口俊を獲得する際に人的補償に指名された平良(たいら)拳太郎(DeNA)が有名だ。

今年に入って成長著しいのは、右サイドハンドの平良である。3勝2敗、防御率1.72と安定した投球で、先発ローテに定着している。

巨人時代は「斎藤雅樹二世」と呼ばれ、キレのあるボールを投げながら好不調の波が激しかった。移籍後に場数を踏むなかで、徐々に洗練されてきた印象だ。

また、今年要注目の人的補償選手として、小野郁(ふみや/ロッテ)の名前も挙げておきたい。楽天にFA移籍した鈴木大地の人的補償で新天地にやってきた小野は、これまでファームでは守護神として活躍するも、1軍では結果を残せずにいた。

今季はここまで防御率4.32と不安定ながら、自己最多の16試合に登板して経験を積んでいる。うなりを上げるようなストレートは誰もが夢を見たくなるだけに、きっかけが欲しい。

最後に紹介したいのは、ソフトバンクの育成選手から成り上がりつつある長谷川宙輝(ひろき/ヤクルト)である。

1軍の試合に出られない育成選手は、在籍3年で一度自由契約になる。長谷川はソフトバンクの厚い選手層にはね返されて高卒3年間で支配下登録を勝ち取れず、自由契約になった。とはいえ、長谷川の将来性を買う球団は契約続行を望んだものの、長谷川はヤクルトと支配下登録による契約を結び、移籍した。

移籍1年目の今季は中継ぎ左腕として辛抱強く起用され、プロ初勝利を挙げるなど18試合に登板。150キロを超える体感速度の速いストレートを武器に、ブレイクの兆しを見せている。長谷川の活躍は、ソフトバンクの育成力の高さと選手層の厚さの象徴でもある。今後もソフトバンクの育成選手から掘り出し物が現れるかもしれない。

プロの世界に飛び込んだ以上、誰もが成功するだけのポテンシャルは秘めている。あとは自分の本領を発揮できる環境を見つけられるか。移籍という制度には、人材を蘇らせる希望があふれている。

取材・文/菊地高弘 写真/共同通信社

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