角居勝彦調教師 ファンの応援が騎手や馬主、馬に与える影響

角居勝彦調教師 ファンの応援が騎手や馬主、馬に与える影響

名調教師が「応援」について語る

 ファンあってのプロスポーツ。競馬もファンあってこそだというが、ギャンブルでもある競馬の場合、ファンとの関係性が少し違う。調教師・角居勝彦氏の週刊ポストの人気連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、ファンの応援が競馬に与える影響についてお届けする。

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 インタビューで「ファンの方々へ一言お願いします」と聞かれると、判で押したように「応援よろしくお願いします!」と締めますね。まるで面白くないものの、聞かれた側にしてみれば、これしかない言葉でもある。

 これが野球やサッカーの選手なら、グラウンドに立った時の歓声が大きければ大きいほど胸が熱くなるはずだし、苦境に立たされた時、気持ちを奮い立たせる力になるに違いありません。

 競馬の場合はどうか。パドックなどでたまに「○○がんばれ!」という声が聞こえる時があるものの、ふつうのファンにとってはやや違和感があるのではないでしょうか。前回に書いた「直線の騎手名連呼」なども声援とも言えますが、その声援に応えて力が入るという話はあまり聞いたことがない(笑い)。

 特定の馬やジョッキーが好きというファンもいますが、多くは「競馬ファン」でギャンブラーなのです。だから本来応援イコール馬券です。「この馬に勝ってほしい!」というファンの願いが、そのまま馬への声援となり、オッズへと反映される。馬名が入っている“がんばれ馬券”なるものもありますしね。人気薄で激走する馬を狙う穴党もいますが、多くは勝てそうな馬、連に絡みそうな馬が「人気者」のはずです。

 オーナーは愛馬が人気になればうれしいし、勝利への期待も高まるかもしれませんが、馬は「よし、人気に応えるぞ!」とはまったく思わない(笑い)。自分の馬券が売れようが売れまいが、まさに馬耳東風です。

 一方、乗っている人間は違う。支持を集めて単勝1.5倍の圧倒的1番人気などという場合、ジョッキーにかかるプレッシャーは相当なものになってしまう(ちなみに調教師も同じです)。

 そんなジョッキーのメンタルを考えてみましょう。大きな声援の期待に応えたいと気持ちを高ぶらせ、レースのシミュレーションに念を入れるはずです。さてそのとき、「思い切ってハナを切ってやれ!」とか「じっと最後方で脚をためるか」とか、極端な作戦は取りにくい。自他ともに認める強い馬なのだから、「スタートを無難に決めて前目につけて、直線で勝負」という、まあスタンダードな作戦に落ち着きがちです。

 ところが、そうは問屋が卸さない。他陣営は圧倒的人気馬を照準にして、さまざまな手を打ってきます。思い切って大逃げを打ったり、真後ろにつけてキツくマークしたり、あるいは勝負所で馬込みに閉じ込めてやろうと思うかもしれない。

 ここで前言撤回、馬も自分の人気がわかります。鞍上の緊張感が伝わるのです。「おや? ○○ジョッキー、いつもと違って、なんか動きが硬いぞ」なんて思うことがあるはずです。これが「オッズの読める馬」の真実なのではないでしょうか。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位(2018年6月10日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が発売中。2021年2月で引退することを発表している。

※週刊ポスト2018年6月29日号

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