高校野球 球数制限より「予選から7回制に変更すべき」論

高校野球 球数制限より「予選から7回制に変更すべき」論

甲子園で881球を投げた金足農・吉田(写真:藤岡雅樹)

“金農フィーバー”に沸いた夏の甲子園100回大会。だが、その陰で突きつけられた大きな課題が、投手の「球数制限」だ。〈大エースが潰れてしまうほどの連投や球数は制限すべき〉〈一部のエリートを守るだけの球数制限は必要ない〉──賛否両論の球数制限について、同志社大学政策学部教授の太田肇氏は、こんな提案をする。

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 夏の高校野球全国大会の余韻がなかなか冷めない。今年の大会は100回記念の名に負けない盛り上がりを見せたが、その主役はなんといっても金足農業高校、そしてエースの吉田輝星選手である。雪国の公立農業高校が都会の名門私立高校をつぎつぎに倒しての躍進に涙を流し、決勝まで一人で投げ抜いたエースの豪腕ぶりに拍手喝采した人は少なくなかった。

 一方、フィーバーの裏側で批判の声も上がった。吉田選手が大会を通じて投じた881球、秋田予選から数えると1517という球数には、「苛酷」という言葉がピッタリする。

 成長途中の高校生にとって、これだけの球数はあまりにも負担が大きく、へたをすると将来の野球人生を台無しにしかねない。国内外から届く批判の声を受け、この問題には野球関係者だけでなく政治家も関心を示すなど、波紋は広がっている。

 唱えられる改革案のなかでひときわ注目されているのは、アメリカのように球数を制限してはどうかという案だ。たしかに一見すると合理的なようだが、つぎのような弊害もある。

 まず、球数を制限すると投手は余分な気を遣うので投球に専念できなくなるだろうし、試合の駆け引きに使われる恐れもある。

 もっと大きな問題は、球数を制限すると各チームは複数のエース級投手をそろえなければならないので、選手層の薄い公立高校や地方の高校は圧倒的に不利になる。野球エリートが集まる大都市の常連校ばかりが勝ち残ることになるだろう。

 ところで、今年の大会が突きつけた問題は球数だけではない。異常な猛暑のなか、炎天下で試合をすることの危険性を指摘する声も大きかった。幸いにして大きな事故やアクシデントは発生しなかったものの、脱水症状からか選手の足が引きつるトラブルが相次ぎ、それが勝敗に影響したとみられるケースもあった。

 炎天下で応援する生徒や観客の健康も心配だ。温暖化で猛暑は年々厳しさを増しているだけに、はたしていまのまま炎天下で大会を続けることができるだろうか。

 さらに、高校野球が過熱化するにつれて練習や試合の負担も大きくなっており、学校の授業や勉強との両立についても真剣に考えなければならない。ちなみに大学スポーツ界では不祥事を契機に「学業優先」への改革が進められようとしている。

◆「7回制」は一石三鳥

 そこで私が提案したいのは、高校野球そのものを「7回制」に変更することである。

 軟式野球やソフトボールのように試合を7イニングにすれば、当然ながら投球数は大幅に減る。現状では9回までの投球数が平均130球くらいなので、単純計算すると7回までなら100球程度になる。

 また同点で延長に入ったら、ソフトボールのように最初からタイブレーク制を取り入れればよい。両方を併用すれば、たとえ一人で完投しても大半がアメリカで目安にしている100球程度に収まるはずだ。

「7回制」を取り入れるメリットはほかにもある。7回制なら試合途中のグラウンド整備も必要なくなるだろうから、現在なら1試合平均2時間余りかかるところが1時間半ほどですむ。そうすると1日に4試合行う場合でも、午前8時から試合を始めて午前中に2試合終えられる。

 残りの2試合は日中の炎天下を避けて、少し日が傾き気温も下がる午後4時ころから行うようにすればよい。それによって熱中症のリスクは大幅に低下し、選手の疲労も軽減されるだろう。

 そして、地区予選や練習試合も短時間で行えるようになれば、授業へのしわ寄せは小さくなり、引率する監督や部長の負担も軽くなる。「一石二鳥」どころか「一石三鳥」ではないか。

◆休養日の2日増も

 さらに連戦が続く大会での体力的消耗を考えるなら、休養日を増やすよう提案したい。そうすれば決勝まで勝ち進むチームもずいぶん疲労の蓄積が防げるだろう。今年の大会でも準々決勝と準決勝の間には休養日があったので、準決勝と決勝の間にも設ければ、大会日程が実質2日伸びるだけで済むはずだ。

 このような改革、とりわけ7回制の導入に対しては反対意見もあるだろう。

「野球は9回まで戦うものだ」とか、これまでの記録との整合性うんぬんといった、取るに足らない反対のほか、7回制の経験ではプロに入ったときに通用しないという懸念が出るかもしれない。しかし後の野球人生という点では、故障歴や消耗が少なくなる利点ほうがはるかに大きいだろう。

 大阪桐蔭高校による大会史上初となる2度目の春夏連覇、103年ぶりとなる秋田県勢の決勝進出といっためでたい出来事にばかり注目が集まりがちだが、突きつけられているのは喫緊の課題だ。

 金属バットやタイブレーク制の採用にしても、高校野球の歴史を変える大きな決断だったが、いまとなってみると決定的な不都合は生じていない。「選手ファースト」の視点から、思い切った決断が期待される。

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