小宮山悟氏が早大野球部監督就任、なぜ今「根性野球」なのか

小宮山悟氏が早大野球部監督就任、なぜ今「根性野球」なのか

名投手が母校を率いる

「監督就任の依頼を受けたときは即決しました。ずっと監督をするならロッテかなと思っていたし、まさか早稲田からオファーがあるとは予想もしていなかったので、自分でいいのか……とは考えました。ただそれでも、断わる理由はありませんでしたから」

 今年1月、プロ野球現役時代に117勝をマークした“ミスターコントロール”こと小宮山悟(53)が、母校・早稲田大学野球部の監督に就任した。

 早大野球部といえば六大学野球を代表する名門だ。しかし、2015年秋季リーグを最後に優勝から遠ざかるなど、ここ数年は満足な成績を残せていない。

「歴史ある組織だからこそ、内部には元プロに指揮を任せることを躊躇する意見もあります。責任のない立場で野球を見ていられる評論家の仕事は楽しかった。でもそういう楽しさより、元プロの自分に対する『再建を託したい』という言葉を重く受け止め、引き受けることにしました」

 新指揮官はまずチームの体質改善、選手の意識改革から取り組んだ。就任間もない現在は、「どこまで踏み込んでよいものか」と選手との距離感を模索している段階だという。

「ここ数年、OBの間でチームを危惧する声が上がっていました。自主練だからと、派手な服装で帽子もかぶらずにグラウンドに出る選手がいる。それを一から正さなくてはならない。

 彼らにまず、なぜいけないのかを教える必要がある。命令するのは簡単です。でも自分で考えて行動できるようにならなければ意味がない。早稲田野球部の本来あるべき姿を取り戻すこと。勝敗以前にそれが新監督として求められていることだと理解しています」

 1月5日の新年初練習。笑いながらランニングする選手に監督が注意する一幕があった。翌日のスポーツ紙には「初カミナリ」の記事が載った。

「あれにはビックリしましたね。あれで騒ぎになるなら、本当のカミナリが落ちたら感電するぞってね(笑い)」

 現役時代のプレーや、解説者時代の言葉から、小宮山に理論派のイメージを抱く人が多いだろう。実際、彼はメジャーリーグの最先端野球にも造詣が深い。そして無駄な練習を極端に嫌う合理主義者だ。ただ、その一方で精神的な強さを重視する根性論者でもある。

「ええ、私の野球は根性野球ですよ。人よりも歯を食いしばって頑張ったヤツが最後に勝つと思っています。

 昭和の野球? いや、それを時代でくくってはいけないと思う。すべての勝負事の根本にある普遍的な概念です。その土台に最先端の科学的な要素をどれだけ上積みできるのか。それで勝負が決まるというのが私の考えです。野球の現場は、ヘラヘラしながら勝てるほど、甘い世界じゃないんですよ」

 今年3月、スポーツ庁主導で大学スポーツ協会(UNIVAS)が発足。大学スポーツに新しい波が訪れようとしている。目玉は六大学野球の早慶戦だろう。ライバル・慶應義塾大学は、2015年に元プロの大久保秀昭監督が就任。2017年秋、2018年春に連覇を果たすなど、一足先に結果を残している。

「(慶應のことは)もちろん意識はします。ただ、半分、早稲田の人間でありながら、もう半分は慶應の人間でもある意識が大切というか……。ライバル早慶がひとセットであるから意味があるものだと思う。向こうはどう思っているかは知りませんけどね(笑い)」

 1960年の秋季リーグ戦、最終週の早慶戦は2勝1敗で早大が勝利。その結果、勝ち点、勝率で並んだ両校の間で優勝決定戦が行なわれた。決定戦は接戦を極め、2試合連続の引き分けの後、第3戦で早大が優勝。これが六大学野球で伝説となっている早慶6連戦だ。

「当時、指揮を執ったのが早稲田・石井連藏、慶應・前田祐吉の両青年監督。野球殿堂入りが噂されるお二人の教え子である私と大久保監督が、再び相まみえる。最初に『なぜ自分が早稲田の監督に?』と言ったけれど、こうやって話してくると、これが自分の運命というか宿命のような気がしてきました」

 新元号のもと、新たな伝説の早慶戦の舞台を整えること。それが小宮山の早大監督としての夢でもあるという。

「2020年は早慶6連戦から60周年を迎えます。勝ったほうが優勝。その年のリーグ戦最終週にそんな早慶戦をできたら、言うことはありません」

●撮影/本誌・藤岡雅樹、取材・文/田中周治

※週刊ポスト2019年4月5日号

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