明石商・狭間善徳監督が語る「公立校が勝ち続けられる理由」

明石商・狭間善徳監督が語る「公立校が勝ち続けられる理由」

明石商業の狭間善徳監督(写真:マスターズスポーツマネジメント)

 明徳義塾の馬淵史郎監督を師と仰ぐのが、2季連続で甲子園を勝ち取った公立の雄・明石商業の狭間善徳監督だ。明徳義塾中学では監督として4度の全国優勝実績を引き下げて、高校野球の指導者に返り咲くと、兵庫県内の勢力図を塗り替える戦いぶりで、一昨秋、昨春、昨夏の西兵庫大会、そして昨秋と史上初の4季連続県大会優勝、県内公式戦連勝記録を「27」に伸ばしている。高校大学球児向けフリーマガジン「サムライベースボール」の発行人である古内義明氏が、公立校として私学を圧倒する狭間マジックに迫った。

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 本州と四国をつなぐ明石海峡大橋を見ながら、山陽本線魚住駅で下りると、私学優勢の時代にあって、公立最後の砦と言われる明石商業がある。報徳学園、東洋大姫路、神戸国際大附属、育英など、全国有数の激戦区にあって、県内公式戦27連勝記録を続けているのは、明石市唯一の市立校として、「MEISHO」と呼ばれる明石商業だ。

──選抜出場おめでとうございます。2季連続甲子園となりましたが、夏の甲子園の経験が、今年のチームにも活きているのでしょうか。

狭間監督「秋の大会は初戦からプロ注目の投手との対戦でした。先制はされたものの、逆転して勝つことが出来ました。簡単には勝ち上がってきていません。試合内容として、しんどい試合の方が多かったです。先制されながらの試合が多く、決勝戦もサヨナラ押し出しですから、追いついて逆転して勝ち上がってきました。近畿大会でも逆転勝ちしたように、秋季大会からここまででしぶとい野球をしているとは思います」

──前評判の高い中森俊介は、どんなピッチャーですか?

狭間監督「中森は目指しているところが高いので、一つ一つに対しての取り組む姿勢が良い投手です。1年生で背番号1を与えても、天狗になること無く、自分が向上してチームのために貢献したいと思っています。勉強もオール5ですから、中学時代は様々な私学から誘われていたほどです。一方で、まだまだ体に力がなく、腹筋や背筋なども十分ではないながら、145キロを投げることができるので、まだまだ伸び代があると思っています。この冬でようやく腹筋300回、背筋200回、腕立て100回をクリアする事が出来ました。それなりの力が付いてきているとは思いますが、まだまだ体の力は足りないです」

──OBで、ドラフト1位で埼玉西武ライオンズに入団した松本航と比べると、どうですか?

狭間監督「航の身体は全てにおいて、柔軟性がありました。中森は特に肩周りが硬いです。当時、航にはスプリットを教えました。日本体育大学ではチェンジアップを習得できず、その代わりにツーシームがピッタリとハマりました。中森の勝負球はストレート。あのストレートがあるからこそ、沈む球も良くなってきて活かせるようになってきました」

──2枚看板の右サイドスローの宮口大輝は?

狭間監督「宮口は体に力があり、能力も高く、中森の良いライバルだと感じています。ただ練習でどこか楽をしようとするので、『この冬、頑張って練習すればヒーローになれるぞ!』と声掛けしてきました。1月初めにインフルエンザにかかり、体重も落ちたので、練習が出来ない時期が続きました。練習に戻ってきてからは意識を高く、練習しています。どこまで継続するか分からないですが、人間性は悪くなく、やんちゃでもないです」

──昨夏の甲子園でベンチ入りした5人が県大会全試合に先発出場。中でも、重宮涼主将や1番を打つ来田涼人の存在は心強いですね。

狭間監督「この10年間、100人を超える大所帯のチームになりました。兵庫県内でも関西学院、姫路工業、明石商業、報徳学園の順番で部員数が多いです。そのチームをまとめようと、重宮はチームで一番に声掛けができて、雰囲気をまとめようという意識があるキャプテンです。核弾頭の来田は、大阪桐蔭をはじめ、46校から勧誘が来たほどの逸材でした」

──強豪ひしめく兵庫県で、勝ち続けられる要因は何ですか?

狭間監督「その一つにデータ野球があります。県内の全ての大会、各球場にデータ班を派遣するので、対戦相手となる全てのデータを持っていて、私が分析をした上で戦っています。投手の癖と配球、捕手の動き、打者のタイミングなど全試合を見ます。練習後に、ビデオで2時間を見て、全員でポジショニングを中心に話し合います。一球一球、ポジショニングを変えるので、選手は一球毎に私の方を見ます。うちと試合をすると、こちらが、1、2本ヒットが多く、相手が、1、2本ヒットが少ない試合が多いです。目には見えませんが、細かいところでのデータ分析の差があるおかげで、このような結果になっています」

──その分析力が、近年の好結果に繋がっていると。

狭間監督「一昨秋、昨春、昨夏の西兵庫大会、そして昨秋と史上初の4季連続県大会優勝、9年連続となる夏の県大会ベスト8以上、県内27連勝も新記録です。6月30日に夏の予選の相手が決まり、10月の近畿大会が終わるまで、ずっと分析を続けているので気分が悪くなるほどです(笑)。

 基礎練習を徹底的にやった上で、どんな状況下でもスクイズ、盗塁、エンドランが出来る準備をして、作戦は状況に応じて決めます。なので、その作戦が実行出来る準備は怠りません。明石商業はスクイズが多いチームと言われますが、準備してきた中で一番勝ちに繋がりやすいプレーがスクイズであり、他にも攻撃のバリエーションはあります」

──この選抜でもデータは力を発揮しそうですか。

狭間監督「兵庫県内だけでなく、甲子園に行く時もほぼ全チーム持っている状況で行きます。今年も32校中20校以上のデータがあります」

 明石南から日体大に進み、保健体育の教職をとって、母校の明石南や高砂南でコーチをした後、明徳義塾高(高知)のコーチとして、名将・馬淵史郎監督に師事。その後、明徳義塾中学監督となってから、狭間監督は指揮官としての才能を開花させた。中学軟式の全国制覇の連覇は史上初であり、計4回の日本一の実績のある高校野球の指導者というのも異色の存在だ。

──中学野球の経験が、高校野球に活かせる点はどこですか?

狭間監督「監督として、6年間で5度、全国中学校軟式野球大会に出場して、4回の日本一を達成しました。基礎は間違いなく、同じです。『備え』、『間』、『タイミング』、『バランス』の4点は一緒です。この4つを理解して、使えるようにして、応用を利かせていくのは一緒で、変わることはありません」

──馬淵野球を、どのように理解されているのでしょうか。

狭間監督「5年間、馬淵監督と一緒にやらせて頂きました。目標とする人であり、私の理想の監督像です。馬淵監督は、言い方を変えることで答えに近づけてくる事と、出来ないことは出来るまでやり続ける精神を、練習の中でこれでもかというぐらい継続させます。全寮制ですので、何かあれば、自らの部屋に呼び、一緒に話をして、コミュニケーションを図ることも徹底しています。甲子園に出場した監督を何人も見てきましたが、指導力の点ではやはり馬淵監督が一番長けていると思います」

──馬淵監督の教えの中で、一番継承したいものは何ですか?

狭間監督「切り口です。ひとつの事をマスターするだけでも、切り口が違えば、表現の違いが出てくるのを見習いたいです。引き出しの数は経験値と探求心、模倣が物語ってくると思います」

──馬淵監督の印象的な言葉はありますか?

狭間監督「『最悪の状態で、最善を尽くす』です。どんな苦しい状況でも、どんな劣勢でも最善を尽くせば、何か突破口があると思っています。本当に苦しくて、負け続けたけれども、『今やらねば、いつやるねん』とずっと言っています。与えられた状況で、最善を尽くそうとすることで得られるのが結果です」

──甲子園の舞台で明徳義塾と戦えたら、最高ですね。

狭間監督「毎年、練習試合をしますが、明徳義塾に行くとゴミ拾いから始まり、夜食事をする時まで、今でも学ぶものが多く、身が引き締まる想いです。2016年の選抜の抽選会で、明徳義塾の横が空いていたことがありましたし、うちが勝って、明徳義塾が負けてしまったりして、まだ一度も対戦できていません。あの舞台で是非、馬淵監督と戦いたいです」

 2005年、明石市は、「野球を通じた町おこし」を実施するため全国初となる野球指導者の公募に踏み切り、9人の指導者候補から選ばれたのが狭間監督だった。2006年にコーチに就き、翌年には監督に就任。野球の実績も右肩上がりで、昨年のドラフトでは松本が埼玉西武に入団し、同校初のプロ野球選手を誕生させた。同時に進学実績も呼応するように結果が出始めている。「目標は日本一」と公言し、2009年の長崎県立清峰高校以来となる、公立校としての選抜での全国制覇を掲げている。

──明石商業の監督になった経緯について教えてください。

狭間監督「2005年に、全国初の野球指導経験者による採用試験を馬淵監督に内緒で受けました。応募条件としては、『44歳以上、中学野球以上で5年以上の監督経験』というものがありました。何百人という受験者がいて、その中には社会人の監督や九州や四国の私学の監督もいらっしゃいました。その中から一次試験を通過したのが9人。その後、10分のプレゼンテーションや30分の面接、一般教養のテストを経て、私が採用されることになりました。合格後、すぐに馬淵監督に伝えましたが、受ける前に話していたら、クビになっていた可能性もあったので心苦しかったのですが、黙って受験しました。

 明徳義塾中学で実績を残し始めると、九州や東北の高校や大学から監督のオファーがありました。実は明石商業が決まる直前まで、東北のある学校に行くことが決まっていたんです。ただ妻が明石市出身で、東北より明石に帰りたいと言うので、地元の明石に戻ることになりました。もし明石商業の監督でなければ、東北に行っていたので、人生は分からないものです。明徳義塾に行ったことで人生が大きく変わり、明石商業に来たことで、再び人生が大きく変わりました」

──狭間監督が行なった改革は勉強でも実を結びましたか?

狭間監督「全国的に見ても、ここまで変化した公立校は他に無いと思います。昔は明石商業に行くぐらいなら職業訓練所へ行った方が良いと言われるほどの高校でした。いまは、オール3であっても不合格にする高校へと変貌しました。明石商業野球部からは国立大学へ3年連続で、また関関同立の全てにも合格者を出しています」

──進学先も近畿だけではなく、関東の大学も増えてきて、好循環ですね。

狭間監督「うちに来た選手は他の高校にいった選手よりもしんどい思いはしますが、進学先も含めて良い経験をして、育っていって欲しいと思っています。就任当時は東京の大学で野球を続ける選手はいませんでしたが、明徳義塾で馬淵監督の元で指導していた事を認めてもらい、少しずつ進学先を増やして行きました。実際進学した選手達が大学選手権で活躍してくれたり、今は大学の方から来てくださり、嬉しい限りです。明石商業に来れば、進学先もあり、就職もでき、甲子園も目指せるということで、来てくれる中学生が増えてきました。いまも、4番を打っている安藤碧はオール5に近い成績を残しています」

──狭間監督の情熱の源は何でしょう。

狭間監督「勝利があるからこそ、厳しい練習に耐えることが出来ると考えています。私は、自分の事では動きませんが、生徒や自分の周りのことになれば、必死で動きます。それをやらなくなったら、(監督を)辞める時だと……。そのぐらい、引き際は大切にしようと思っています。野球の難しさや喜び、1人では出来ずに、仲間に頼ることで生まれる感動などをたくさん経験して欲しいです。だからこそ、『常に仲間からの信用や信頼を勝ち取るように』と言っています」

──監督としての信条はありますか?

狭間監督「7名のスタッフが休みなしで、生徒のために頑張ってくれています。英語教員が1人、社会教員が2人、残りが外部コーチになります。音をあげて辞めていく人が多い中で、残ってくれたコーチたちがいるからこそ、明石商業の野球ができています。

『思い続ける』と『人との出会い』がここまで大切にしてきたことです。思い続ければ、必ず道が拓けてきます。また、そこには人との出会いが必要となってきます。積み重ねることで、信用や信頼を勝ち取ることに繋がります。継続できることは才能、いかに続けることが出来るか。入部してきた1年生には、『3年生になってもベンチ入りできないこともある。それでも腐ることなく、すねたりせずにやり切れるか?』と、一人一人に尋ねるようにしています。だから、3年生になってメンバーに入れなくても、『自分の出来ることを一生懸命やれ』ということで、応援からグランド整備まで手伝ってくれます」

──初戦の相手は東京の国士舘高校に決まりました。2009年の清峰高校以来となる、公立校の日本一を狙う上で選抜の抱負をお願いします。

狭間監督「今年のチームは投手を中心とした守りのチームです。昨年の甲子園経験者18人中8人が残ります。投手陣は並より少し良い程度で、まだまだです。それを補う明石商業の特徴として、しぶとく打てる選手がいるので、『7回から野球が始まる』と言われるぐらいです。負けていても、追いつけるチームなので、恵まれているチームには負けるわけにはいきません!」

【PROFILE】
狭間善徳(はざま・よしのり)/1964年5月12日生まれ。明石南から日体大を経て、母校の明石南や高砂南でコーチ経験後、1993年から明徳義塾中学校野球部コーチを務め、同校監督として全国優勝4回を達成。2007年に明石商業野球部監督に就任。9年連続兵庫県大会ベスト8は最長記録。選抜甲子園は2016年に初出場すると、2015年から2017年まで3季連続で夏の県大会準優勝を経験し、2018年に悲願の夏初優勝を果たした。一昨秋、昨春、昨夏の西兵庫大会、そして昨秋と史上初の4季連続県大会優勝を記録し、県内公式戦連勝記録を「27」に伸ばし続けている。

古内義明(ふるうち・よしあき)/1968年7月7日生まれ。立教大学法学部卒、同時に体育会野球部出身。高校・大学球児向け「サムライベースボール」発行人として、これまで数百校の高校を取材し、アマチュア関係者と独自の人脈を構築。近著に、『4千分の1の名将 新・高校野球学【関西編】』(大和書房)がある。(株)マスターズスポーツマネジメント代表取締役、テレビやラジオで高校野球からメジャーリーグまで多角的に分析する情報発信。立教大学では、「スポーツビジネス論〜メジャーの1兆円ビジネス」の教鞭を執る。

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