30年間土俵に立ち続ける46歳力士 序二段600勝の大記録

現役最年長46歳の力士・華吹、30年間土俵に立ち続け序二段の力士ながら600勝の大記録

記事まとめ

  • 現役最年長力士の華吹は幕内、十両はおろか幕下の土俵にすら一度も立ったことがない
  • 30年以上にわたり土俵に立ち続け、序二段の力士ながら11位となる605勝をあげている
  • 優勝37回の白鵬が1021勝でトップ、稀勢の里は777勝で4位のところすごい記録だという

30年間土俵に立ち続ける46歳力士 序二段600勝の大記録

30年間土俵に立ち続ける46歳力士 序二段600勝の大記録

部屋のちゃんこ長でもある華吹

 幕内上位の取組に送られる大歓声とは無縁のところで今5月場所、“大記録”が打ち立てられた。

 歴代単独トップとなる「通算在位187場所」──。実は、その記録を達成した現役最年長力士は、幕内、十両はおろか幕下の土俵にすら一度も立ったことのない序二段の力士なのである。一体、何者なのか。

 立浪部屋の華吹(はなかぜ)、46歳。1986年3月場所に初土俵を踏んで以来、30年以上にわたって土俵に立ち続けてきたが、最高位は三段目。それでいながら、西の序二段28枚目で迎えた今場所をもって、歴代最多となる通算在位187場所の記録を打ち立てた。相撲担当記者は語る。

「協会には約700人の力士が所属し、そのうち幕内力士は42人(約6%)。関取と呼ばれる十両以上でも70人(約10%)しかおらず、9割は幕下以下の力士で構成されています。

 幕下以下の力士には関取や親方の付け人、部屋のちゃんこ番などの仕事がある。角界には入門年齢の制限はあるが定年はなく、成績不振でも辞める必要がない。だから、親方や関取を支える役回りで現役を長く続ける力士もいます。華吹もそうした力士の一人です。

 その一方で、相撲協会では幕下以下の力士を大きく取り上げることがタブー視されている。そのため、部屋の運営を支える存在であるにもかかわらずスポットが当たることがない。だから“大記録”が広く知られずに打ち立てられたりするのです」

 場所前に、華吹と同期で初土俵を踏んだ北斗龍(三段目、山響部屋)が引退。それによって華吹は通算在位単独トップとなったわけだが、やはりほとんど注目されていない。

 それでも、華吹の積み上げた“戦績”は相当なものだ。春場所終了時点での現役力士の通算勝ち星ランキングを見てみると、華吹は錚々たる面々に混じってトップ20に名を連ねている。

 優勝37回の白鵬が1021勝でトップ、稀勢の里は777勝で4位のところ、関取にすらなったことがない華吹は11位となる605勝(670敗)をあげているのだ。この数字は短命横綱に終わった大乃国の560勝(319敗)をも上回る。師匠である立浪親方(元小結・旭豊)はこういう。

「僕の生涯成績が364勝341敗(幕内通算160勝198敗)ですからそれより断然多い(笑い)。華吹は関取経験がないので、1場所に7番までしか取ったことがありません。1年で最大42番ですから、勝率5割としても1年間で20勝前後しかできないわけです。600勝は30年ほとんど休まずに土俵に上がり続けた証であり、すごい記録だと思いますよ」(前出・担当記者)

 ちなみに華吹の初土俵は立浪親方より1年早く、“師匠は弟弟子”という状態である。八角理事長(元横綱・北勝海)の現役時代とも重なっていることになるのだから、その息の長さがよくわかる。

 2011年5月場所で栃天晃(元十両)が44歳2か月で引退して以降、最年長力士となっている。

◆「ちゃんこで忙しくて稽古ができない」

 勝ち越しのたびに0.5円が加算される「持ち給金」。累積された額の4000倍が、場所ごとに力士褒賞金として支払われる。

 華吹の持ち給金は2012年9月場所で68円0銭となり、一ノ矢(元三段目、2007年11月場所で引退、現・高砂部屋マネージャー)が持っていた「最高位が三段目以下の力士の力士褒賞金額」の記録を更新している。

 また現役力士の負け数のランキングでは安美錦(現・十両、最高位は関脇)が806敗で1位だが、2位だった朝赤龍が場所前に引退し、華吹は通算負け数現役2位となった。

 そんな華吹の長い現役生活の中でのハイライトは2003年9月場所だった。華吹自身が振り返る。

「西三段目74枚目で初日から6連勝したんです。7連勝なら幕下昇進、優勝決定戦に勝てば三段目優勝の可能性もありましたが、最後に勝てませんでした」

 それでも46歳で迎えた先場所は西序二段60枚目で4勝3敗と勝ち越しているのだから驚かされる。

 先代の立浪親方の時代から、30年近くちゃんこ番を担当する華吹。現在は、ちゃんこ長として部屋の力士の健康管理を担っている。華吹が続ける。

「稽古の時間ですか? ちゃんこの仕込みなどもあって、正直な話、十分にないですね。稽古が不足したぶんは、午後からジムに通って鍛えています。毎日のちゃんこの具材は、冷蔵庫にあるものを見て、その日ごとに考えます。

 若い力士に白飯をたっぷり食べてもらうためには味付けに工夫しないといけない。食欲が落ちる夏場はスタミナ面に注意が必要。若い子に部屋伝統のちゃんこの作り方も教えないといけない。いつまで現役か? いやぁ、わからないですね」

 横にいた立浪親方に「力士の定年は何歳ですか?」と尋ねるも、親方は苦笑して首をかしげるだけ。

「髷が結えなくなったら引退とも聞いたが、そんな力士見たことないしね。体が動き、勝てるうちは現役を続けたいです」(華吹)

 史上最年長力士は明治期に活躍した鬼ケ谷で、引退時の年齢は51歳。序二段の600勝力士は、そこまで視界に入ってきている。

※週刊ポスト2017年6月2日号

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